novel | ナノ


06| 恩寵を君に

カーテン越しに柔らかく降り注いだ朝日に#変換してください#はそっと目を覚ました。
二、三回瞬きをするとようやく脳が動き出したのか朝になったと気が付いた。

身体を起こそうとしたが、自分以外の体の重みを感じて右隣を見ると、
そこにはまだ静かな寝息をたてて眠りにつく椿の姿があった。

そういえば昨日は、一緒に寝ていたんだっけ。

とまだ少しぼやけた頭でそう思い出すと
椿の寝顔を見て微笑んだ。
昔から見慣れた整った顔立ちだが、少し会わない間にまた一段と大人っぽくなった気がした。

さて、どうするかと小さく溜息をつく。
昨晩はいつもより少し早めに眠りについた為、疲れや眠気はなかった。
枕元にあるホテルの備え付けのデジタル時計は午前七時半を知らせていた。

そろそろ起きて、朝の身支度を整えたところだが
生憎、昨晩抱きつかれて寝た体勢のままの為どうにかして椿をどかさなければならない。けれど、気持ちよさそうに寝ている椿を起こすのは心苦しいところだ。

先日、下位吸血鬼である桜哉から聴いた話では、
椿は最近よく出掛けているそうで帰りも遅く、忙しそうにしているとのこと。
彼も椿が具体的に何をしているのは知らないような口ぶりだった。

そんな話を聞いてしまった後では、余計に起こすことは避けたい気持ちになる。


このままもう一度寝てしまおうかとも考えたが、目が冴えてしょうがない。
椿を起こさないように、ゆっくり彼の腕から抜け出そうと身じろぐと
それに気がついたのか、椿が目を覚ましてしまった。

「んー……?もう朝?」

「ええ、おはよう。ごめんなさい、起こしちゃった?」

「おはよう……今、何時?」

「七時半を過ぎたところよ」

「まだそんな時間か……もう少し寝てようよ」

そう言って椿はもう一度抱き返してきた。
だが、先ほど#変換してください#は身体を起こそうと少し体勢を変えていた為
椿が抱きついたちょうどその位置に、#変換してください#の胸元がくる

つまり、椿が今顔をうずめたのは#変換してください#の谷間である訳で

「……っ!!!!!!」

一瞬理解するの遅れ、固まっていた#変換してください#だったが
声にならない悲鳴と共に、力の限り押し返すと
反対側のベッドサイドへと鈍い音と共に椿は転落した。









「全く……」


と少し頬を赤らめながらも、ふてくされた様子#変換してください#の姿が鏡に映しだされる。
ブラシで淡い金色の長い髪を何度か梳かし、髪型を整えるともう一度確認で鏡に向き直る。
よし、っと自分の中でつぶやくと洗面台のあるバスルームから出ると、部屋へと戻る。

すると椿は、またベッドに戻り眠りについていたようだった。
先ほどまで「痛い」だの、「ひどい」だのと文句を言っていたが
どうりで静かになった訳だと#変換してください#は一人で納得し溜息をついた。

寝かせてあげたいと思っていたのでちょうどいい、と思い
そのまま椿は寝かせておくことにした。



朝食も兼ねてラウンジへ行こうと、部屋を出る。
椿を起こさないよう、静かにドアを閉めることも忘れない。


#変換してください#達の宿泊している東京ワールドツリーホテルは
都内でも有数の高級ホテルと有名で、著名人や来日する海外の有名人も利用する由緒正しき宿泊施設だと聞いた。
そのホテルの最上階含め3フロアを貸し切っているのだから
椿の財源はどうなっているのか#変換してください#は疑問に思っていた。
しかし、椿に何度聞いても「秘密」とごまかすばかりで真相は分かっていない。

そんな高級ホテルと銘打つだけあり、最上階を含む四十階以降の五つのフロアには
それぞれラウンジが完備されており、食事や軽食をとることが出来る。
#変換してください#に与えられた部屋の目の前にはラウンジがある為、利用しやすい事もあり
時間を持て余す#変換してください#はよくその場にいる事が多かった。


今日もいつも通り利用しようとラウンジに視線を移すと
既にラウンジには椿の下位達が集まっていた。
いつもなら、あまりこの場では見かけないメンバーもいて何事かと思う。
しかも何か言い合いをしており、揉めているようにも見えた。

その様子を自室の前で立ち尽くしながら見ていた#変換してください#だったが
ふと、それに桜哉が気付き目の前にいたシャムロックに伝える。

「ほら、本人もお目覚めなようだぜ?自分で聞いてみればいいだろ?」

「ぐっ…!」

そう言って桜哉は#変換してください#のもとへと近づいてきた。
その後ろを渋々…といった感じでシャムロックやベルキアが続いて歩く。

重苦しい雰囲気に、#変換してください#も自然と不安な気持ちにかられた。


「え、えっと、おはよう桜哉……みんなも」

ぞろぞろと#変換してください#の元に集まってきた下位達に戸惑いながらも挨拶をする。

「おはよーございます。ところで、椿さん知らない?」

「え?」

「なっ!!桜哉、お前何を言ってっ!!?」

挨拶も早々に、桜哉がそう訪ねる。その質問に間髪いれずにシャムロックが反応した。
興奮したように声をあらげるその姿に、#変換してください#はびっくりして二人のやり取りに目を奪われた。

「そんなウジウジ気にしてるくらいなら聞いた方が早いだろ?」

「だからってそんな聞き方は!これはデリケートな問題なのを忘れたのか!?」

「デリケートも何も事実知らない事には何も出来ないだろ。……それに俺はただ単に、うじうじしてるお前がウザイから早くハッキリさせたいだけなんだよ。」

「アハハッ☆それ分かるゥ〜〜!女々しいよねェ〜〜ッ!」

「ベルキアまで……!」


とベルキアまでもが会話に参加し、ますますヒートアップしてきた。
「あまり騒がしいのは困ります…。」とその横で一人無表情でいたオトギリがぽつりと発言する。
これは、どういう状況なのだろうか?


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