28| 恩寵を君に
真っ直ぐに向けられた#変換してください#の眼差しで見つめられ一瞬たじろぐクロだったが、すぐに視線を逸らし#変換してください#から顔を背けると少しの沈黙の後重い口を開いた。
「……悪いが、#変換してください#の力にはなれない」
「……。」
「今の俺はサーヴァンプ。主人の命令に従うだけのただの吸血鬼には、何も出来ない。」
「そんな……。」
「だからお前も、椿から離れろ。アイツの傍にいるのは危険だ。」
「ダメ…。椿を一人にしては…」
椿を止められるのは自分しかいない、一人にしてしまったらそれこそ何を仕出かすか分からない。 そんな想いから出た言葉なのだが、#変換してください#の言葉を受け取ったクロから返された返答は予期せぬものだった。
「……俺の事は、一人で行かせたのに?」
この言葉に#変換してください#は目を見開いた。頭が真っ白になり、言葉が出てこない。
クロの顔を見上げれば、ハッとしたような表情を浮かべた後背を向けられてしまった。 その背中は昔と比べ成長し、もう別の大人の男性の背中のようにも見えたが あの頃の小さな少年の背中のようにも感じられた。 そしてクロはそのまま何も言わず、#変換してください#の前から去っていった。
クロの言葉は#変換してください#の胸に深く突き刺さり、彼にかける言葉が見つからない。 #変換してください#はただ立ち去るクロの背中を見つめる事しか出来なかった。
________________ ___ _
公園の木製のベンチに一人腰掛ける。 冷たく硬いその材木の感触が今の#変換してください#にとっては心地よかった。
―――#変換してください#の力にはなれない
彼から、突き放すように放たれたその言葉がずっと#変換してください#の耳から離れなかった。
無条件に彼なら力になってくれると思っていた。どこかで彼に甘えていたのだろう、 きっと自分を助けてくれる、と。 そんな甘い考えで期待していた自分に嫌気がさした。 私は彼にひどい事をしてきたのだ。 簡単に許されていいはずがない。
そうだ、彼があんな身体にサーヴァンプとなってしまったのだって元はと言えば――…
その時、#変換してください#のポケットにしまっていたスマートフォンが震えた。
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