「ねーねー、レギュー?」


前々から知っていたが


「ちょっと、返事しろブラック弟」


こいつは勇気があるからグリフィンドールに入ったわけじゃない


「レギューレギュー」
「なんですかミョウジ」
「あ、返事した」


にぱー、と笑って、スリザリンの僕とスリザリンのテーブルで朝食をとる。

毎度のことながら周囲の異常な目を気にしないとかじゃない、気にも留めようとなんてしていない。
スリザリンとグリフィンドールは敵対寮だっていう空気を読まない。


「おはよーレギュ」
「…………」
「あ、また返事しねぇよ、このやろ」


繰り返すが、ナマエ・ミョウジは決して勇気があるからグリフィンドールに入ったんじゃない。
だって、この女を一言で表すなら、正真正銘の馬鹿としか言えないのだから。







ホグワーツ特急、はじめて向かう魔法学校ホグワーツ。
ブラック家の恥さらしである兄の代わりに相当の圧力の下でずっと生きてきた。
夏休みに帰って来た兄にニヤニヤ笑いながらホグワーツの生活を話された。
軽くあしらいながら聞いていたけれども、きっとこの兄のような生活、僕には訪れない。


「レギュラス、ホグワーツ特急、オススメは1番端の車両だぜ」


レギュラスの部屋で、先程まで母親に散々罵られた腹いせのように蛙チョコビター味を開け、蛙の手足をブチブチと剥いては口に含んでいた。
なんともまぁ、かわいらしいストレス解消法。


「俺去年、ブラック家の息子ってだけでかなりの人数に寄って来られてうざかったのなんの。おまえも騒々しいの苦手だろ」


トランクに教科書を詰めながら、ついでに頷いた。
ありがたい情報として頂いておこう。

バーァンッ、と自分の部屋の扉が開き、般若が降りて来ている母親がそこにいた。


「そこの出来損ない!レギュラスに話し掛けんじゃないよ!」
「なんだとクソばばぁっ!」


………加えて言う。
僕は騒々しいのが大嫌いだ。
したがって、自分の部屋がそうなる原因である兄とは口を利かないでおこう、と少し思った。





兄の助言に従って、先頭車両のコンパートメントに乗り込んだ。
誰もいない。
快適を現した状態だ。
読書用に本を持って来て良かった。

列車はホグワーツに向けて走り出す。
世間(この場合は中央付近の雑音だらけの大人数車両のことをいう)の喧騒から逃れ、ゆったりとした時間を過ごす………

ガ、とコンパートメントの扉が開いた。


「ここ空いてる?空いてるよね」


返事をする前に自己完結しやがった!
と言うか、この車両なら他にも空いてるコンパートメントはあるだろうに
少女は僕に手を差し延べた。


「新入生よね。私もよ。ナマエ・ミョウジ。ナマエって呼んでね」


なんともけたたましい…
それが第一印象であり、そのイメージはずっと変わらない。


「ちょっと?出しっぱなしの手が恥ずかしいじゃない、手はこうすんの!」


本を読む僕の右手を掴み、握手させると満足気に笑った。


「…ブラックだ。レギュラス・ブラック」
「ふーん、ブラックね。よろしくレギュ」


ちょっと待て
いつ誰が名前で、しかも勝手な愛称で呼んで良いと言った!?

人がそう悶々としてるうちにナマエは自前の菓子を貪りはじめた。


「いるかい?レギュ」


カラフルな筒に入ったチョコレート。
手を差し延べると、ザアァッと手の平にチョコを乗せた。


「……多過ぎるだろ」
「だってこれで全部だもん」


そう言って、僕の手の平に乗ってるチョコをひとつ取り、パクッと口へ含んだ。
………なんの冗談だ。
おかげでチョコを食べるには本を読む手を休むしか方法はなくなった。


「ね、ね、レギュはどこの寮入りたい?」
「スリザリンです」
「へー!私グリフィンドール!」


…それ、敵対寮って分かってないから、こう会話になる、んだろうか。


「やっぱ女の子は赤が好きなんだもん」


色か!
こいつの基準は見た目か!!


「スリザリンは緑でしょーやっぱ、緑より赤の方が可愛いと思うの。あ!赤と緑ってクリスマスカラーだね!」


返事をする暇がない。
なんだ、このマシンガンな口は……


「レギュってさ、お兄ちゃんいる?」
「ああ」
「だよね!さっき話し掛けて来た人ソックリだもん」


ちょっと拗ねたような表情を見せて、マシンガンが少しだけ止んだ。


「友達になれそーだった子みんながブラック先輩とあと3人にヘラヘラしちゃってさ、もー手持ち無沙汰過ぎて抜けて来ちゃった!」


悲しくもそれに似てしまった自分は、やはりきっと、そう囲まれる標的になりえただろう。
その辺り、シリウスに感謝だ。


「あ、そーいや、レギュはなんでスリザリン?緑好き?」
「寮を色で選ぶのは貴方くらいですよ」
「ナマエ」
「ミョウジくら、」
「ナマエ」
「………ナマエ」
「そかなー?さっき喋ってた女の子たちは色とか動物で盛り上がったけど。で、理由は?」
「………先祖代々スリザリンだから」


ダメだ、体力相当消費する。


「だから?」
「………だからスリザリンに」
「変じゃない?それ。祖先が何だ!今の時代、個人よ、個性よ、アイデンティティよ!」


ダメだ、こいつハイテンション過ぎる。


「うちの親もじっちゃんばっちゃんもミーンナ寮とか学校とかめちゃくちゃだよ」
「…あーだから、性格もめちゃくちゃ」
「なんだとコラ」


思わず口に出してしまった。

カートを引きながらおばさんがお菓子とかを売りに来た。
ナマエはまたお菓子を買い込んでいた。


「まあ、レギュがそれが良いと思う選択なら私が何か言う必要は皆無だけど」


そう言って蛙チョコの袋を開ける。
カードを見て「きゃ、ダンブルドアがウィンクしてきた」なんて言うナマエを横目に、少し考え込んでしまった。

今まで、自分で良しとした選択を歩んで来たかどうか。


ナマエはそんな僕を気にも留めずに蛙チョコの手足をもぎながら口に運んだ。

誰かに似ていると思ったら、ヤツだ。




イヤな奴に似ている、
なのに別に、嫌いじゃない

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