ピーターは悩んでいた。しっかり全部覚えてなんていないが、必死で今はトランクに入っているマグル学の教科書を頭の中でめくる。
唸り声を上げながら、路線図を睨んだ。
ようやく自分が降りるべき駅、料金が分かると、次は財布と睨み合いを始めた。
マグルの硬貨なんて何がなんだか良くは覚えていない。


( ……こ、これってヤバ……いよ、ね )


駅員が冷たい目でいかにも怪しんでますよね!な目線をくださった。
どうしよう、泣きそうだ。



「………ヘックシュ」



耳にしたのは同い年くらいの少女のくしゃみ
不意にそちらを見てみると、彼女はこちらに気付き、ニコリ、と笑った。

胸が、痛い。

耳まで赤くなったことは分かった。
なんだか、今まであたふたしていたが、びしっとばしっとやる事やれば出来る男だと言い聞かせて、冷静になったら意外にもあっさりと切符は買えた。


嬉しくなって頬が緩んだ。


なんとなく、さっきの子をまた見たい、と思って簡単に見回してみたけれども見付からなくて、少し残念に思った。

そんな上手いこと行くわけないよなー、とガックリと肩を落として重い荷物を引きずって列車に乗り込んだ。





「あ」





思わず声が出た口を慌てて押さえると、列車が発車する合図が ぴるるるるるる と鳴ってドアが閉まりかけた。
だけど梟を入れてるカゴが挟まって、一旦また少しだけ開いた。
列車に乗ってるおばさんに白い目で見られて、すみませんすみません、と頭を下げながら急いでカゴを引き寄せる。
空いていたから安易に座れた。

わざとさっきの女の子の向かい側の椅子に。(でもわざわざ真向かいに座る度胸はありませんでした)

列車は進むにつれてロンドンから郊外へと向かっている。
少しずつ、人が乗ったり降りたりを繰り返して、気が付いたら乗ってる車両にはピーターと女の子だけになっていた。

カツカツ、と梟がケージをくちばしで叩いた。

出たいのは分かるけどおとなしくしてくれ、とケージの間に指を突っ込んで撫でようとしたのに、その指をつっつかれた。
痛い。飼い梟に指をつっつかれた思いだ……ってそのままだ。



「その鳥、ペット?」



不意に声をかけられてびっくりしてその声の主の方を向いた。
話し掛けられるなんて思ってもみなかった。

「う、うん」
「……梟だよね? すごいなーペットで飼うなんて」
「そ、そう? 僕の友達は飼ってる子多いよ」
「えー、そんな人、そうそういないよ!」

女の子は自分から真向かいの席に移動してまじまじと梟を見詰めた。

「かぁわいいねー」

そう言ってケージに指を突っ込んで撫でようとして「危ないよ!」と言ったにも関わらず、思惑が外れ、梟はおとなしく撫でられていた。

「……何が?」
「………いや、別に…」

なんなんだ、おまえ
と、梟をにらみつけたが知らん顔をされた。
地味にショックだ。

「この大荷物ってことは、夏休みの帰省?」
「うん」
「寮生なんだね、いいなー羨ましい」

女の子は落ちて来た髪の毛を耳にかけて微笑んだ。

「しばらく友達に会えないから寂しいでしょ?」
「んー……でも連絡はとれるし」
「手紙?」
「この子が運んでくれるんだよ」
「……伝書鳩ならぬ伝書梟!」

すごいすごい!と妙に感動してる彼女を見て今更ながらに気付いた。
相手がマグルの少女であったこと。

「梟が手紙持って来てくれるなんてロマンチックね、でも本当なの?」
「………なんなら、手紙書いてみようか?」

言った側から後悔した。似合わない挑戦的な口ぶり。
なんでか出てしまった言葉に自分でもビックリだ。

「………いいの?」

え。
その問いにはこちらも同じ言葉を返したい。

「あ、じゃあ住所…」
「大丈夫だよ、名前さえ教えてもらえれば」
「ナマエ」
「………ナマエ?」

ふわ、とした笑顔を向けられて胸が痛くなった。
なんでか分かんないけど。

「ナマエ・ミョウジ、って言うの」

「ナマエ、だって」と梟に囁くと記憶した、と胸を張られた。
ぼわ、と羽が膨らみ体が大きく見えた。

「僕はピーター・ペディクリュー」
「ピーター、ね。よろしく」

列車の速度がだんだん落ちて、ついに止まった。
ドアが開いてナマエが立ち上がる。

「じゃあ、私行くね」
「うん、手紙書くよ」
「ピーターはどこで降りるの?」
「えっ、と………」

がさごそ、と無造作に突っ込んでいた自宅の最寄駅の名前を書いていたメモ見せて、ここ、と指をさした。

「…………ねぇ、ピーター」
「何?」
「……………その駅、反対方向だよ」
「…………えええぇぇぇっ!!!???」


















もちろん、家に帰り着いたのは予定よりもかなり遅く。
パパもママもそのくらいは予測済みだったらしく、まったく慌てふためいてなどいなかった。
(むしろ、『ただいまー』『おぉ!ピーター、すごいじゃないか、今日中に帰って来たなんて!』なんて言われたくらいだから……あ、なんか言ってて涙が……)



夏休み初日、マグルの友達ができました
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -