「あ、り、え、な、い!!!!!」

むしむしと熱い日差しと地面の水分という水分が干上がっていく水蒸気のコンボが身体中から汗腺という汗腺を活発化させていた。
名前は木陰に行くのも面倒くさく、もっていた平鍬を掘り起こしている真っ最中の土に置き、柄に手のひらを乗せ、その上に顎を置いてだれていた。
学校指定のジャージにTシャツ、首にかけいていたタオルだけでは間に合わず、頭にまで別のタオルを巻いている。

それだけの防備を嘲笑うかのようなこの天気。

「……呪う!…地球温暖化を呪ってやる…!」

不穏なオーラがもわっと沸いた自信がある。
それただの水蒸気化した汗だろ、と突っ込まれては元も子もないけれども。

昨日の朝方、学校がようやく終わった、晴れて長期休暇だー!ひゃっほーい!!!だなんて言ったためしがない!
学校では起床!掃除!牧場!飯!授業!掃除!牧場!農場!部活!飯!風呂!点呼!就寝!、家では起床!牧場!農場!飯!の連続、つまるところ授業というものがあるかないかくらいな違いだけが存在しているのであって、それが学校収益か、親の手伝いか…肉体労働的にはそんな違いである。
要は名前は生粋の農家の子供ということだ。

真夏のビニールハウス農園ほどではないといっても直接肌に当たる太陽光は確実にジリジリと紫外線を与え続ける女の敵だ。しかし光合成の要だ。一長一短の差が激しすぎる!
きいいぃぃぃ!と歯を食いしばりながら気合で鍬を振り続けた。
こんなもんトラクターで一気に土掘り起こすくらいやってくれてもいいじゃないか!!と心の底から思っているのだが、苗字家では、じじばばちちはは兄弟姉妹家族揃いも揃って一気に方をつけていく共同作業のうえ、いちいち雑草抜いたりミミズは避けてあげたり「良い土にするためなら努力は惜しまない」方針でまかり通ってしまっている。
そりゃあトラクターに巻き込まれたミミズちゃんの運命は悲惨だけどさ!!

と、土に明け暮れて一日が過ぎた。
ゆっくりとご飯を食べてテレビ見ながら談笑してのんびり寝た。はずだった。



ちょうどレム睡眠時だったから多分寝始めてから2、3時間後のことだった。
「んもぉ〜ぅ」と不穏を知らせる鳴き声がする。牛だ。
仕方ねえ、行ってやるか、と布団からもぞりと起き上がると、鳴き声がしたら目が覚める反射持ちの祖父が同じように起きていて懐中電灯を持って玄関先にいた。

「祖父ちゃんいいよ、私がいく」
「何言ってんだ、こんな時間に子供を外に行かせたら神さまに名前が連れてかれる」
「ナニソレ(笑)」

馬鹿にしたような声を上げて懐中電灯を受け取る、というより奪い取る。
爺孝行させてくれよ、なんて死んでも言わないけれど。

「山の神さまが強い人間を連れて行くことがあるって知ってるだろ」
「あぁ、神隠しね。はいはい、よーーーーく聞き及んでまっす、いってきまっす」
「馬鹿もん!!ワシの子供のころも近所の名前はなんじゃったかのう…とにかく近所のモンが突然姿を消したんじゃ!」
「わぁーったって、気をつけるし」

じゃね、と言い残して家を出る。
祖父がまだ喚いた気がしたが無視した。
まっさかこんな田舎に不審者がいるわけないしね。

そう高をくくって牛舎まで足を運ぶ。
鳴いた牛はどの子だろう、と懐中電灯を回して寝ぼけ眼の牛たちに迷惑をかけるごめんよ!
すると1頭の乳牛がいないことに気がついた。

「よぉしこぉぉぉぉぉ!!」

牛舎を飛び出て、迷子牛の愛称を叫んだ。なぜ脱走したのよおバカ!
呼びかけると最初と同じように暢気極まりない鳴き声が聞こえた。
暢気極まりないっていうのは失礼、彼女なりに必死な鳴き声だった。
声の発信源を頼りに走って向かう。

懐中電灯を彼女に向けているというのに夜だからかなかなか暗い。
ホルスタイン特有の白黒が限りなく黒にも見えたが少し見える白の分量、あれはよしこだ。

暢気に牧草食べてんじゃないわよーっ!と軽くタックルしようと助走をつける。本気でやったら怒るからね、殺されるから冗談抜きにマジ強ぇ!
ていやっ!と反転させた体をよしこの胴部に突撃させた、はずだった。








予想では、ぼよん、と押し返されるはずだったのに、何故かそのまま草の中に倒れこんだ。
あれ、目測外れた?なんて暢気に考えて、体を起こす。
よしこがいない。
っていうか、見慣れた牧草地じゃない。

乾いた笑い声が喉から漏れた。

「……ま、さか。ね」

頭の中に木霊するのは祖父との最後の会話。
爺孝行なんかするもんじゃなかったかもしれない。
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