山の神々は時折強い人間と戯れたがるものだ。








試験が、いつもどおり悲惨な点数で担任の土井先生に胃痛を起こさせて終われば、忍術学園からほんの少しお別れして実家に戻らなければならない。一年間で最も腰が痛くなるけどにやけた顔になってしまう、収穫の秋。
級友と共に途中までの道を過ごし、別れてから走って家に帰る。半農半忍の家の出である乱太郎のような生徒のための休みはエンジョイよりも使命を全うせねばならないのだ――――!

「………ってカッコつけてたのにほとんど収穫終わってるううぅぅぅ!?」
「あら、乱太郎おかえり!」

乱太郎の頭の中では、たんぼ一面が黄金色に輝いていたのに、稲は綺麗に刈られて、切り口は土と同化していたどちらかと言えば黄土色、輝くなど綺麗な言葉は口が裂けても言えない。
終わってるどころか、父母はたんぼ脇のいつも休憩時に座る切株に座っていたのだ。
そして父母が気合いで仕事を終わらせたにしては母に疲れの色が見えなかった。
良い汗かいた!と清々しい顔をしながら汗を拭う父もおかしい。
肉体労働なんだからもっと疲れているはずだろうに、と悶々と考えはじめた乱太郎とは打って変わって両親は笑顔でのんびりしている。

「な、なにがどうなってるんだ」
「お父さん、お母さん、お茶持ってきました」

頭を抱える乱太郎の耳に聞いたことがない声が飛び込む。
え、と声の主を見遣ると見たことがない女の子が盆の上に湯呑みを乗せて急ぎ足で寄ってきていた。

って、お父さん? お母さん?

「ちょうどよかった、紹介するぞ、乱太郎!」

父はそう言って立ち上がると目の前で止まった女の子の背中を叩いた。

「お前の姉の名前だ」
「……は〜〜〜〜〜っ!!?」
「………そりゃそうよね、お父さん、いきなりそんなこと言われても混乱するだけよ、普通」
「む、そうか!ダメだぞ乱太郎!立派な忍者になるために忍術学園に通ってるんだ!多少のことで取り乱すな!」
「いや、これ絶対、『多少』じゃないでしょ父ちゃん!!!」

何がどうなっているんだと頭を両手で押さえた乱太郎に湯飲みが手渡される。

「驚かせてごめんね、話、きいてもらえる?」
「ありがとうございます」

貰ったお茶は、おいしく感じた。
同時に彼女の質問にもちろん、という意味を込めて頷くと、両親が立ち上がって田んぼに残していた稲束を自宅前に運ぶという作業に戻ろうとしていた。

「あ、私もやります!やらせてください!!」
「いいのよ、名前ちゃん、あたしらじゃうまく乱太郎に説明できそうにないから、先に教えてあげて」

少し躊躇ったあと、おとなしく「はい」と返した名前は乱太郎を手招きして先ほどまで両親が座っていたところに腰を下ろした。
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テーマ「人外ファンタジー」
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