ポカポカとした日差しが窓から差し込み、窓際後ろから三番目というなんとも絶好なポジションで今から5限が始まろうとしている。
しかもおじいちゃん先生の歴史。
これ遠回しな言い方だけど、つまりは今からお昼寝の時間ってコトだよね。

とりあえず真面目に教科書とノートとほとんど開いたこともないでかでかと名前しか書いていない資料集、ペンケースをロッカーから持って来て席に着こうとした。


「名字ー、暑いから窓あけてー」
「あいよー」


クラスメートに言われて窓を開けると風が舞い込んでカーテンが揺れた。
必要以上の筆記具は持たないおかげで軽いペンケースがカーテンにぶつかって下に落ちた。
舌打ちしながら拾う間に人の席に友達が座りに来た。
そして窓枠に寄り掛かりながらグラウンドを眺めて「あ」と声を出した。


「グラウンド今からA組男子っぽーい」
「あそ」
「うん、用具室からベースが持って来たあたり、今からキックベースかな」
「なんであえて? 普通に野球でしょ」


アハハ、と軽く笑うと、ちょうどよくチャイムが鳴って、友人は「じゃねん」と言いながら自分の席へ戻って行った。

起立、礼、着席
さあ寝るぞ。

教科書を立ててノートを開いていかにもな装備をして、早々に眠りの世界へ滑りこんだ。





ら、突然左肩に痛みを感じて目を覚ました。


「いだっ!!」


と授業中にも関わらず叫ぶと、教室の至る所から視線を向けられた。
一瞬どーしたんだ、と思い黒板を見たところ、半分以上白チョークで埋まっているくらいの時間にはなっていた。


「ちょっ、名前大丈夫っ!?」
「……大丈夫くない、痛い、何これ、マジ泣きそう」


後ろから聞かれて逆に聞き返すと恐ろしい事実を聞かされた。


「ボールが肩に直撃したんだよ」
「はっ!? マジで、これホントにボールなわけ? こんな痛いのに」
「名字ー……痛いなら保健室行ってきなさい」
「ぅはーい……」
「誰か名字に付き合って……」
「先生大丈夫ー、一人で行きます」


おじいちゃん先生の言葉が天使のようだった。
あまりにも痛いからって患部を押さえながら保健室に向かう途中、階段に差し掛かって一、二段のとこで下から駆け上がってくる足音が聞こえた。
正面に来て向かいあってみると、A組男子は超息を切らしてた。


「あ、もしかしてボール」
「ご、ごめんなっ! 俺の投げたボールが」
「あーうん、よくあんな大暴投」


とりあえず避けて階段を下りると、彼は私の後ろについてきた。


「投げたボールにビビったバッターのバットが当たって変なとこまで行っちまったんだよ」
「………へー」


保健室の扉を開けると山積みになった卒アルの中に保健医が埋まっている。


「シャマル先生ー怪我人ー」
「男は見ねぇぞー」
「いや女だから」
「先に言えそれは」


卒アルを掻き分けて出て来た保健医に事情を話し、腕を見せる為に袖をノースリーブになるまで捲くった。


「腕上がるか?」
「あぁ、はい」
「……ふー、不幸中の幸いってやつだな、骨は大丈夫そうだ」


とりあえず湿布貼るぞ、とシャマルは用意とかしてる間にぶつぶつ文句を言っていた。


「……ったく、麗しい乙女の肌を傷物にして…」
「先生、青あざだけって言ってたじゃないですか」
「女の子にとっては充分過ぎるくらいの大怪我だ、残ったらタンクもキャミもそれ一枚では着れないぞ」
「あ、それやだ」
「だろー。はい、おわり」


手際よく包帯まで巻いてもらった。
湿布は臭いけど、患部はひんやりして気持ちいい。


「ありがとうございましたー」
「いえいえー、お礼はキッスでね」
「………投げキスでも良いですか」
「オールオッケー」


なんのギャグだろうと笑って特に何もしないまま保健室を出た。
シャマル先生って面白いよね。


「大丈夫だったか?」


声のする方を見ると、もう自分のクラスに戻ったと思ってた彼が待っていた。


「骨には異常ないって。あ、でも乙女の肌が傷物になったって言われた」
「ほ、ホントにごめんな」


まだ慌てて謝るなんてホント笑えてくる。


「いーよ、だって事故でしょ?山本」
「……あれ?俺の名前知ってたのか?」
「もちろん、野球部のエースさんですから」


そう言うと、照れるなーと恥ずかしそうに笑った。


「傷物になってどこにも行けなくなったらいつでも俺のとこ来て良いからな、名字」
「……あれ?私の名前知ってたの?」
「もちろん、好きな子の名前くらい知ってるさ」








…………は? 今この人何て言った?









「なぁ、名前って呼んで良いか?」

コールミーマイネーム!
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