ばふん、と何のギャグですか、と言いたくなるような爆発音がした。風圧で後ろに垂らしたままだった髪の毛が全部身体の前に集まった。
もくもくもく、と白い煙が立ち、嫌な臭いが鼻をついた。
恐る恐る、振り返ってみれば、好奇心か、単なる怖いもの知らずなのか、屋敷しもべ妖精たちがオーブンを開こうとした。
「あぁっ!ちょっ、待った!!」
制止の言葉を言うには少しばかり遅かったようで、オーブンを開いた瞬間またバンっ、と何かが破裂する音がした。
つづいて、わざとらしいシュウウゥゥ、という音がかつて食べられる予定だったものを焦げさせたんだぜお前は、みたいな音が耳をついた。
「…………もおおぉぉぉ、なんでよおぉぉ」
通算7回目。
何の数って、そりゃあ、ちょっと、女として口にしたくない。
ぽん、と肩を叩かれて、ドンマイ!と拳を握ったリリーにちくしょおぉっ、と泣き付いた。
何日か前に、グリフィンドールの仲良しグループの間で、“やっぱり男の気を引くには料理が1番だ”という話になって、“趣味はお菓子作りです☆”って言うのすっごくポイント高いし可愛いよね、よし、趣味に仕立てよう!!
という、単純明快、今思うと阿呆丸出しな計画を実行して、分かった。
私、料理の才全然ない
「そんなことないわよ、名前」
「……リリー!」
と、慰めの言葉を差し延べたリリーを捕まえて、日々暇を見付けては屋敷しもべ妖精に案内させては調理室を占拠、爆発を繰り返している。
「てかさ、料理なんて魔法があればちょいじゃん」
「……名前、あなたでしょう、やり始めたのは」
「ぐっ」
「そもそも、魔法があっても何をどのくらいどのようにするか指示しないと意味もないでしょう」
「………リリー、君は正論以外のことを言わないのかね」
「えぇ」
シュウシュウとおかしな音を立てるバタークッキーだったはずのココアクッキー以上に黒い物体を取り出しながら、そんなやり取りをした。
うん、嫌な臭い。
「………リリー、あげる」
「………いらないわ」
「ジェームズにあげてよ」
「付け上がらせるだけになるじゃない」
「彼は良いごみ箱なのだよ!リリー、君にかければ!」
「………致死に至るかしら?…」
「……え、ちょ、そんなに酷いの?」
「……………さ、そろそろ夕食の時間よ、名前」
傷付く!
無言って1番傷付く!
泣きながらリリーの後をスゴスゴ着いて行きながら大広間うために廊下へ向かった。
角を曲がろうとしたリリーの足が止まる。
どうしたのかと思ったら納得できる声がした。
「やぁ、リリー!今から大広間かい?僕もなんだよ、よかったら一緒に」
「行かないわ!!あと名前を気安く呼ばないでちょうだい」
スパッ、と断る辺り、やっぱりカッコイイなーリリー。
逃げるように速足で歩くリリーに気が付いたら遅れを取っていた。
私と打って変わってジェームズはちゃんとリリーに歩を合わせている。すげー。
その後ろをずっと同じスピードでシリウスとピーターが歩いていた。
「……置いてかれちゃったなー」
「じゃあ僕と行く?」
「……うん」
リーマスだけは私と同じくぼけーっとやり取りを眺めていたため、まだここにいた。
すん、とリーマスが鼻を吸った。
「……なんか名前からバターの匂いがする」
「あーうん。鼻良いねリーマス」
「…まぁね、子供のときから」
勿体なくて無造作に袋に入れていたクッキーを思い出した。
「クッキー作ったんだけど、まーた失敗しちゃってね」
「食べたいなぁ」
アハハ、と軽く笑っていたのにリーマスが珍妙なことを言い出したからびっくりして見詰めてしまった。
「……え、あの、無理ですよリーマスさん。死にますよ?」
「死なない死なない。ねぇ一個くらいいーでしょ?」
「いやいやいやいや、まだ若い麗らかな男性を死に追いやるなんて私にはそんな惨いマネできません!」
ごそ、と問題の物が入った袋が収納されているローブのポッケにリーマスの手が伸びた。
キャー!と袋を取って狙われ腕を回して逃げ回り擦った揉んだしていて、まあ、身長というリーチに敵うはずがなく、見事袋は取られました。
食われました。
「いやーーっ!死に急がないでリーマス!!」
「だから死なないって。ココアの味薄いねコレ。焦げた味の方が強い」
「ココアクッキーじゃなーいっ!焦げた味ってガン細胞作りやすくなっちゃうよ!!」
一枚はやられてしまったけれども袋を奪還して、半泣き状態で収納し直した。
「ううう……なんで食べちゃうかなぁ……」
「なんでって……彼女が作ったものなら食べたくなるもんじゃん?」
知らないよそんな心理。
ぺろ、と親指についていたクッキーのカスを舐めるリーマスを見て鼓動が一瞬大きくなった。
ホントは、お菓子作るの上手くなりたいの趣味にしたら云々じゃない。
「頑張ってる名前、好きだよ」
思い切り男子受けってゆーかリーマス受けを狙ってるの、もしかしなくてもバレてる?
マイダーリンビタースウィート
ほてった頬が戻らない
「まぁ、僕はもっと甘いのが好きだけどね」
「………精進します」