新学期早々に、真新しいのにすでに使い込まれている天文学の教科書を談話室で読書する気満々で開いた。
あまりの集中ぶりに仲良しのリリーも後ろから恐る恐るといった感じで近付いて来た。

「ああ、やっぱり天文学の教科書ね」
「そーだよ」
「名前ってば、ホントに天文好きよね」
「うんっ!」

空が好きで星とか月とかは幻想的だし、なんか、ホントに好き!ということは同じ寮、同じ学年の人なら知らない人はいないんじゃないかなーってくらい、私は天文が大好き!
いわゆるオタクだとかマニアだと自覚してる。

「あーあ、決闘クラブならぬ天文クラブがあれば良いのに」
「じゃあ名前自身で作れば良いじゃない」

ヒョコ、とふわっふわのくせっ毛眼鏡が現れて、普段はかわいいリリーの表情が引き攣った。

「やめてポッター、私と名前に近寄らないで」
「酷いなぁリリーってば」

二人の会話は私の耳を左から右へ受け流した。

「そっかぁ作れば………でも入る人なんかいなさそ…」
「なに言ってるのよ、私入るわよ」
「リリーが入るなら僕らも入るさ!なあ、シリウス!!」
「はあっ?」
「ほら、もう4人になった」

どう考えても4人目は強制っていうか、今まで私たちが話してた内容を知らないからもう一度言え的な意味を含んでいた気がするんだけど…ま、いっか。

「よーし、じゃあ急遽天文クラブ結成ー☆」

今まで座っていたソファの上に立ち上がって片腕を天井に突き上げた。
このまま自分と同じ部類の人が増えれば良いな!

「で、何をするの?」

ジェームズに聞かれて、とりあえず考えもなく答えた。

「あー…えっと、夜中に寮を抜け出して天文塔占拠して天体観測!」
「いいね、それ、乗った!」
「ちょっ…!あなたたち何考えてるの!?」

ノリノリのジェームズと私を諌めるために監督生リリーが怒った。
けど、ごめんねリリー、実はやってみたかったんだ。

「じゃ、いつ決行?」
「来週末!」
「おーけー」
「ちょ、あなたたち!」
「ハハハ、なんだいリリー!ヤキモチかい?」
「…こっの糞眼鏡〜」

リリーが柄にもなく、ジェームズの襟首を掴んで前に後ろに振り回したけど、心配なんて忘れちゃうくらい自分の突発的にたてたプランに浮足立った。








ついさっきまでは。









約束の日、談話室で粘ったんだけど、…誰も来やしねぇ。
チクショー、みんなどーせ口だけなんでぃ……!

時計と裏面に太った婦人がいる扉をチラホラ見遣って、結局、私は寮を抜け出す覚悟をした。
寝ぼけ眼の婦人が「なにやってるの………もにゅもにゅ……」と呟いた気がしたが、スルーさせてもらって、天文塔へ急いだ。
誰もいない城は…正直、薄気味悪い。

ぺたーんぺたーんと不気味な音が廊下に響く。
…って、自分の足音なんだけど。

と、思ってたら、ミャオ、と猫の鳴く声が聞こえた。
こんな時間に出歩く猫は奴しかいない。

「ミセス・ノリスやい……見つけたのかい、悪いガキを」

キターーー!!!!

やっべー、マジやべーっ!

頭がいつも以上に回らない。目がグルグル回って来た。

「おいっ!」

咄嗟に腕を引っ張られて、ぽす、と抱き留められた。

「シリウス!」
「しっ、フィルチに見付かりたいわけじゃねーだろ?」

人差し指を唇に当てたシリウスを見て口をつぐんだ。
シリウスのマントに入れてもらって、廊下の隅に隠れたけど…………

 ミャオゥ

こ、こわ……………っ!

「よしよし、ミセス、おいで」

フィルチがミセス・ノリスを抱え、また城の見回りに行った。
完全に行ってしまったと分かった時点で、はあー、とシリウスから大きな溜息が聞こえた。


「お前な〜、……なんで一人で行くわけ?」
「だって誰も来なかったんだもん」
「エバンスに足止めくらってたんだよ」
「まさかホントにシリウスがメンバーとも思ってなかったもん」
「おい」
「そんなことより、行こうよ」


マントから出ようとしたらシリウスに止められた。


「行くって。でもマントから出るんじゃねー」
「狭いじゃん」
「我慢しろ」


だいたいデカいマントが歩き回ってたらかなり不気味だと思うけど…


天井吹き抜けの塔のてっぺんにつくと、マントから抜け出して月を捜した。
けど、お目当ての星は沈んでた。


「あ、あああぁぁぁー」


ガクッと落ち込んでいるとマントを乱雑に畳んだシリウスが興味なさ気に胡座をかいて隣に座った。


「何が見たかったんだよ」
「金星……と木星と月…が最接近してたんだよぉっ!み、見逃した………!」


ただでさえ金星は出てる時間短いのに!!

ふーん、とシリウスがごろ寝をしはじめた。


「あ、オリオンの三ツ星」
「…もうオリオンが天頂な時間だったの…!」


ああ!一生の不覚……!
ってこれは大袈裟って流石に分かるわ。


「あの白いのがベテルギウスだろ」
「うん」
「赤いのがリゲル」
「うん」
「オリオンの隣の赤い星は?」
「スピカ。一目惚れしたゼウスが相手の娘に近寄ったときに白い牛に化けたときの姿でちょうど目のところだよ。そんで、その娘が背中に乗った瞬間、逃げた、つまり誘拐?みたいな」


冬なだけあって星が綺麗に見えた。


「…うわーお前みたい」
「なんだと?」


星は好きだがどうもゼウスは好きになれない私に何を言う。失礼だ。まるで私が工口魔人だと言っているようじゃないか。


「んー、好きなもんに充血するくらいひたむきなとこ?」


…………あ、だからスピカ赤いんだ。
ってそんな話聞いたことないし!!


「んじゃ、オリオンの反対隣の一等星は?」
「シリウス」


ニター、とシリウスが笑った。


「見詰められてるみたいだな」


会話の前後を繋げて考えたら、顔が赤くなった。


「何考えてんのよアンタ」
「ん? 前からお前のことばかりだけど」


…………………は?
ちょっと待ってよ!
そんなの聞いたことも興味もない!!

私は、星が好きで、恋人は星で充分………ってああぁ!星見てみたら真っ先にシリウスが目に入った!
一等星って目立つんだよ!しかも天体で一番目立ってんだよシリウスは!
学校でも信じらんないくらい目立ってるし……ってシリウス違いいぃっ…!

不意に視界が暗くなったと思ったら、唇になんかあたった。
それが何なのか理解したら目の前にいるシリウスが笑った。


「顔真っ赤」


あああ!
悔しいけど、今、私の顔は赤くて視線の先にはシリウスで頭の中もシリウスですよ!!

空でも同じように、スピカは赤く光って、シリウスは煌々と輝いていた。

チクショウ、これ、喜ばせたのは私、だよね
………ってシリウス違いいぃぃっ!






スピカの先にある光
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