うっとりと鏡を見つめた。その手は愛しい者を触るかのように優しく、色の異なる両目が、今は誰にも見られてなどいないが、妖艶に輝いている。

「クフ………相変わらず美しい……ねぇ、そう思うでしょう、鏡も」

どう考えてもナルシシズムがかなり痛いところまで進んだ発言に、毎度のことながら、鏡はかすかに視線を泳がせた。

「クフフ………この世で1番美しい僕…かわいらしいのも」
『それは違うと思うぴょん』
「なんですって」

ガ、ガ、ガ、と鏡に八つ当たりを始めると、鏡は『キャン!』と喚いて言葉を続けた。

『む、骸しゃんよりも、かわいらしいってカンジの奴がいると思ったんだびょん!』
「な、なんてことです!誰ですか、それは!?」
『ぼ、ボンゴレの10代目(仮)』
「許せませんね…この世の美すべてを表すのは僕だけで充分です」

そう言って骸は近くにあった上着を羽織り、外出の支度を整えた。

『骸しゃん!いったいどこに』
「ボンゴレとやらを見に行きます…場合によっては命を」

つづきは言わずとも知れた。

そうとは知らず、ボンゴレ10代目(仮)は庭でぼけーっとしていた。
仲間たちのいる家は賑やかだけれど、もともとは一人ぼっちでいる質だった内面はそう易々と変わってはいなかった。

ふ、と人影に気がつき、そちらを見ると、そこに、誰かがいたはずなのに突然靄が現れた。
深い霧に包まれたようだ。

「ええぇっ?な、なんなんだよ急に!」

くぃ、と着ていた服の裾を掴まれた。
そちらを見ると、うすぼんやりとではあるが、自分より幾分か背の低い眼帯をつけた少女がいた。

「逃げて」
「え?」
「この霧が消える前に、貴方の仲間たちの元に逃げて」
「な、なんで」
「貴方は、狙われてる。今以外、逃げることは難しい、私がなんとか、するから早く」
「う、うん、わ分かった」

なんだか良く、むしろさっぱり解らなかったが、とりあえず霧の中、ほとんどカンで帰路につこうとした。
フ、ととりあえず少女に礼を言おうと振り返ったが、霧が濃くてどこにいるのか分からない。

しかし、声は届くだろう、と声を張り上げた。

「ありがとう!俺、森の真ん中くらいに住んでるから今度おいで!何かお礼させて!」

律儀に口頭文句を言い、返事がなかったが、そのまま帰った………
その後ろで少年には聞こえなくなったぐらいの距離まで離れたとき、霧から声が聞こえた。


「………なるほど、鏡の犬もだいぶ、趣味が良くなったらしい」


クフフ、と嬉しそうに骸は笑った。

「………コレクションに…増やしましょうかね…」


骸には類い稀なる美貌と類を見ない変態加減に相俟って、かなり際どいコレクションがあった。


「クフ………ヴァリアーのオカマさんとまた見せあいっこしましょうか」


人間の肉体収集…むろん、息は、止まっている方だ。


危険は、すぐそこまで迫っていた。












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