「宍戸先輩ー、まだやるんですかぁ?」

その習慣がはじまって何日も何ヶ月も経っていた気がした。

「当たり前だ! 次!!」

レギュラー落ちした先輩はあの冷血監督からチャンスをつかみ取ると、前以上に頑張りだした。
とりあえず、俺ほど速くて強いサーブを放つ奴もなかなかいない、ビビりを克服する、ということを目下の目標にしている。

サーブを放ったあと脇腹がジン、と痛んだのを感じた。
ちゃんとストレッチしたんだけどなぁ、と背中に手を伸ばして、宍戸先輩にばれないように痛みを感じた部位に圧力をかけた。

うーん、痛い。
情けない。

「…長太郎!何やってんだ!次!」

先輩頑張ってるのになー

すみませーん、とへら、と笑ってからまたサーブを先輩に放った。

ゲ。失敗。

と、思った。
監督がいたら多分、すごい睨まれてたと思う。

相手からすればすごく返しやすい球になっていた。

なのに、先輩はまったく反応を見せなかった。
仮にも元レギュラーだった、あの先輩がだ。

「……………長太郎」

あ、怒ってる。

すごく分かりやすいオーラが漂っていた。
ずいずいとコート端から近寄って来て、遂には目の前まで来られて、キ、と背伸びしながら睨まれた。

平均身長とかで考えたら決して小さくないんだけど、俺からすると小さいんだよなー、先輩

と、頭の中で悠長に考えていたら、不意にちょうど痛みを感じていた脇腹を抓られた。

「いっ」

予期せぬ痛みに反射的に涙腺から一粒ほど涙が出て目に溜まった。

「痛いなら先に言え!馬鹿が!」

ボカ、と頭を殴られて、しおしおとしゃがみ込んでしまった。

「もう今日は良い。ありがとな」

ジン、とまた痛みを感じた。
どちらかと言うと、胸よりちょっと下の辺り。
腹?
だけど、この痛みはよくあるんだよなー

目の端に、トンボを持ってタラタラと今まで使っていたコートを整備する先輩が映った。

「宍戸先輩!俺がやりますよ!」
「ケガ人はじっとしとけ!馬鹿!」

ケガ…とまで言わないんじゃないかな?と突っ込むのは野暮だと思ったので喉に押し込めた。

かけ終わると、帰るぞ!と声をかけられた。

急ごう、と思って走ったら、また怒鳴られてしまった。
うっかり、またすみません、とヘラ、と笑うと、しょうがないな、と笑われた。

また腹と言うか、胸の下あたりがシク、と痛んだ。

「先輩」
「あ?」
「なんか、先輩のこと考える度にこの辺、シクシクすんですよね」

帰りがけ、思いに思ったことを口にしてみた。
例の辺りを手で示してみる。

先輩はチラリと見ただけで特に何も言わなかった。

でも、この痛みどっかで経験ある。
そう、例えば、バレンタインとかで小学生のとき、気になってた女の子が自分じゃないクラスメートにチョコあげるの見たときとか。

……って、あ?

「………もしかして恋ってヤツですかねぇ」

ボソリ、と呟くと、それまで聞き流していた先輩がグルリと驚いた表情でこちらに振り返って凝視してきた。

「……はぁっ?馬鹿じゃねーの!?」

はは、とまたへら、と笑った。

うん、多分、馬鹿だと思う。
だって、そんな罵りの言葉だって先輩に言われると何だか嬉しい気がするし。

先輩は再度、この馬鹿が、と言って、進行方向に視線を合わせた。

ん?あれ?

たしかに、周囲は暗いけど、街灯とか周囲の家の明かりが漏れてたりはしている。

でも、今さ、
宍戸先輩、顔、紅くなってなかった?















チョタ宍って可愛いよね
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