ふわふわふわふわ、
なんだか今まで知らなかったような浮いた心持ちだった。
髪の毛、柔らか、そう
「ボス」
髑髏は目線の先にいた少年に声をかけた。
ボスと呼ばれたボンゴレ10代目・沢田綱吉は、珍しく一人で帰宅中だった。
ニコ中っぽそうな右腕は武器の仕入れに、スポーツ少年は大会が近いらしく、部活が長引いているためだった。
「髑髏も今帰り?」
友好的な笑みを漏らす。
髑髏は何となしにその綱吉の表情に安堵を覚えた。
「…あれ、黒曜中も終わったのさっきだよね?」
綱吉は(ほとんど)無い頭をフル回転させて、疑念が浮かんだ。
髑髏がコクン、と首肯した。
「…なんとなく、ボス見たくなったから…」
「…途中で抜け出したの…!?」
再び首肯。
綱吉は軽く目まいを覚えた。
俺の回り、普通な奴ってほんといない…!
だけど、女子供相手になると途端に甘さに輪をかけて甘くなってしまう綱吉がいた。
こちらを見上げる髑髏の眼帯に覆われているため片目しか見えない目が妙に柴犬の子犬を彷彿させる。
「立ち話も何だから、うち来る?」
「いいの?」
もちろん、と笑顔で返し、綱吉は髑髏の歩調に合わせながら先導した。
「髑髏は途中で授業サボっても分かんなくなったりしないの?」
「…考えたことない」
今、なんだかボスに会いたい、と思ったら止まらなかったの、とストレートに恥ずかしいことを言われると綱吉としては反応し辛い。
「…俺なんか授業聞いてても分かんないから羨ましいよ!」
誰か、俺に平々凡々な会話をさせて下さい
「ボス…私、突然、来て迷惑、だった?」
ダメだって、この目は弱いんだって
「そんな事ないよ!」
「ほんと?」
赤くなるほど必死になって、手を振った。
初めて髑髏に会った日を思い出す。
ウ゛ァリアーの雷の守護者だった奴が髑髏を異常なまなざしで見つめていた(と、リボーンが言っていた)が、彼の気持ちも分からなくもない。
多分、彼女自身、自覚しているのかいないのか分からないけれども、目を引き付ける何かがある気がする(リボーンは雷の奴も似た様な事言ってたぜ、と後から笑った)。
「はひぃ! 綱さん!!」
後方からハルの声がした。
振り返ると、やはり彼女がいた、ただし、いつもとは違う青い顔で。
「どうしたんだよ、ハル?」
「…だ、誰ですか、そのプリティーガールは…!?」
は、と気付いた、そういえばこの2人、初対面か!!と(時々、ハルはいったいどこまで知っているか分からなくなる)。
「…えーっと、ハル、この子は」
「綱さんの浮気者ぉっ!!」
「…えぇっ!? ちょ、ハル!!!?」
髑髏の紹介もままならない内に脱兎の如くハルは駆けて行ってしまった。
「…なんなんだよ、あいつ…」
「ボス…追い掛けなくていいの?」
「え? なんで?」
上手く説明できそうにないので、髑髏はううん、と首を振った。
親しい彼女よりも自分を取ってくれた、とまた、ほわほわとした気持ちが込み上げて来た。
ほんの、淡い、
その気持ちに名前をつけるのは まだ 当分先のこと。