※未来王厚生直後
※ネタバレ注意






「おっかさんは、僕を許してくださるだろうか。」
 いきなりカムパネルラが、思い切ったというように、少しどもりながら、せきこんで言いました。











明るい光に包まれていた。
意味が分からない、ともう一度首を捻ったハオの頭を一撫でする手がある。
久しぶりの感覚は余りにも照れ臭く、赤くなっては白い目で見られて気持ちが悪かった。
不意に目の前に女の人が立っていたことに気付いた。目を合わせると、その人は茎子だと分かった。
麻の葉が茎子に向かって微笑んだ。茎子はぎこちない笑顔を返していた。
向かい合うのがとても不思議に思っていた。

「ぼうや、この方には特別に謝らなければ、ね」

ぐ、と言葉が喉につまった。言い返すことは出来なかった。

「……すまなかった…けい、」
「ハオ」

謝りきる前に茎子に言葉を遮られ、気が付いたら抱きしめられていた。

「私は、あなたを倒さなきゃならないと思ってた、でも」

抱きしめる力が強くなった。

「あなたを、恨みきることは出来なかった」

茎子の喉が震えていた。
鳴咽を漏らすのを堪えている。
ハオは胸が締め付けられる思いでいっぱいになった。

抱きしめ返そうかと手が浮いた。
しかし躊躇いの気持ちの方が大きくて、浮遊しているだけだった。
大きな手が頭に乗ってきた。
母とは違う、とても節くれだった硬い、でも温かい手だった。

「……とても、辛かったんだよ、僕も、茎子も……茎子の方が誰よりも辛かったろうけどね」

普通の親子の関係に誰よりも憧れていた。誰よりも掛け離れていた。離れざるをえなかった。
ハオの迷っていた手が、初めて置き場を定めた。
茎子を抱きしめ返した。

「ごめん、なさい……母、さん」

躊躇いながら言った言葉が茎子の我慢していた涙の防波堤を決壊させた。
どうしよう、と麻の葉を見るとハオはそっちのけで幹久と話し始めている。
気を利かせているのだろうけれども、ハオにとっては全く気の休まらない状態だった。
のんびりした足取りで葉が近付いて来ていた。
はた、と目が合うと、にこーとした笑顔を向けられた。

「………オイラも、こーゆー家族に憧れてた」

葉がそう言うと長らく抱きしめ合っていた茎子がやっと離れた。赤く目が腫れている。

「ハオ」

葉は首にかけていた熊の爪の首飾りを外してハオに渡した。

「……あいつに、会ってやれよ」

もちろん、それが誰のことかは誰よりも分かっている。
首飾りを強くにぎりしめた。
合わせる顔がないのはお互い様だったと思う。

「母さん」
「「なあに」」

二人の声が重なり、麻の葉はクスクスと笑い、茎子は真っ赤になって口を隠した。
ハオの口元にも笑みが浮かんだ。

「ともだちに、会いに行ってくる」

その返事も二人の母にニッコリと笑い同時に言った。
無事に、ちゃんと帰って来なさいという意味を込めて


「「いってらっしゃい、ハオ」」










「僕は、おっかさんが本当に幸せになるなら、どんなことでもする。けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸せなんだろう。」カムパネルラは、何だか泣き出したいのを一生懸命こらえているようでした。
「君のおっかさんは、なんにもひどいことないじゃないの。」ジョパンニはびっくりして叫びました。
「僕、わからない。けれども、だれだって、本当にいいことをしたら、いちばん幸せなんだねえ。だから、おっかさんは、僕を許してくださると思う。」カムパネルラは、何か本当に決心しているように見えました。




きっと今頃、皆さん会っているに違いない、と思いながら何度目か繰り返し読んだ物語の一文を胸に居る大切な人に重ねる。
回りの雑音を気にしないで自分の世界に入り浸っていると、不意に本に陰が落ちた。
見上げるとそこに、懐かしいあの人がいる。






「ただいま、マタムネ」

迎えてくれた胸に飛び込んだ。
寂しさでいっぱいだった胸が喜びに満ちている。
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