※ホロ→←たま
※フラワーズ






報われない恋をしていた、それを分かっててずっと好きでいようと思っていた。
そんな君が好きだよと、いつか振り向いてくれるなんて馬鹿みたいな期待がなかったと言ったら大嘘になってしまうけれど。
ラブストーリーのヒロインは絶対彼が振り向いてくれる、そんなものに憧れなんか持とうものなら今の私がきっと崩れ落ちる。それどころかその人のライバルにだってなれない、だって彼女のことも好きなんだもの






物持ちが良いから、昔から使っている携帯電話は今ではすでにメモリが最大限になってまで使っている。
メールは新着が来ると勝手に日付が古いものから消えてしまう、それが嫌だから、大切なメールには保護をかける機能がある、そうしたメールに応えたためしはないけれど見る度に幸せな気持ちになってしまう。

時計を見るともう7時を越えて、8時近くになっている。 ダラダラと朝食を取っている大事な人達から預かっている大切な一人息子はいくら補習とはいえすでに学校に向かうべき時間だ。

「……花ちゃん学校は?」
「うぇ〜〜めんどくさ」
「学校は?」

ドスを効かせてそう言うと花の顔が土気色がかり、残りのご飯と牛乳を急いで食べ切り「行って参ります!」と逃げるように走って行こうとした。

「花ちゃん、食器は片しなさいと何度言ったら分かるのかしら?」
「あい!すみませんっ」

花が振り返って食器を積み上げていると、着物の胸元に入れていた携帯のバイブが響いた。
つい昨日も届いた、返信はしていないメールを思い出した。

「…………もう良いわ、残りはやっといてあげるから早く学校行きなさい」
「え、あ〜、うん、行ってきま〜〜〜す」
「いってらっしゃい」

ズルズルと鈍い足取りは、よっぽど学校が嫌なんだな、と教えてくれている。 掴みやすい感情はどちらの親譲りなのか分からないが、そのあとの実行力は確実に両方に似ているとしか思えない。 接触時間は極端に少ない親子なのに実に不思議に感じる。
補講授業はサボるか何かで帰って来るのも時間の問題ではないかと思った、まあ卒業さえ出来れば良いか、だなんて考えを持っていないと言ったら嘘なのでやっぱり帰って来ようものなら怒るしかないだろう、と嘆息する。

花が途中まで片付けた食器を流しまで持って行き、先程届いたメールを開いた。

葉やアンナよりも頻繁にメールを送ってくる、いつも通りあの人からだった。
少し意識して、目をつむり、息を整えてからそれを開く。





『今からそっち行く』





主語述語がはっきりしていない、きっと本人しか正しい意味は分からない独特の文面だ。
それにしてもまったくこちらの事情を考えてくれてない、と少し憤慨した。

携帯をテーブルの上に置き、今日からホームステイするという道家の目に入れても痛くないという可愛い可愛い息子のためにも掃除もしなくちゃ、と中居花組を呼び付けた。


数時間経ったころ、「ごめんくださーい」と男の声が響いた。 ひょい、と竜が顔を出すと相手の男はよ!と手を挙げた。

「おー、ホロホロ!久しぶりじゃねぇか」
「竜も元気そうだな」

竜に呼ばれるままにホロホロは遠慮のカケラもなく、門を潜り玄関へ向かった。
たまおがパタパタとそちらに向かうともう靴を脱ごうとしている頃だった。

「……お久しぶりです」
「……あー、おう。あ、これ手土産な」

差し出されたのはホロホロが作ったというマリモ型の菓子だ。 ちなみに花いわく味は至極微妙とのこと。

ぎこちない空気が妙に恥じらいを感じさせる。


「あのさ………」
「……なんですか?」


パシ、と急にホロホロが手を合わせた。

「追われてんだ、匿ってくれ!」
「…………は?」

詳しい理由を聞くまででなかった。
前々から財政がなんとかかんとかとピリカネットワークで聞いている、ただ

「………残念ですが、今日から空いてる部屋はありません」
「えっ!?」
「メイデンさんと蓮さんの御子息がホームステイすることになりましたので」

うがーっ、と頭を抱えるホロホロに気付かれないように、胸元の携帯に触れた。

「花ちゃんの部屋くらいしかありませんよ」

冷静にそれだけ言って、忙しいので、言い訳を作り、近くの部屋へ入ると、襖をぴしと閉めた。
後ろ手で隙間が出来ないように、荒れた息が外に聞こえないように、うるさい心臓の音が漏れないように、

外から彼の声が聞こえてくる
(しかたねーな、花坊の部屋使わせてもらうか)
(本気かよホロホロ、坊ちゃん嫌がるぞ)

携帯が震える、開くと珍しいことに本来の家の持ち主である葉からのメールだった。
じわり、昔の恋心が疼く。
強く携帯を握りしめると、うっかり余計なボタンに触れ、几帳面な性格から、送信者事にフォルダ分けをしていたため彼とは違うフォルダへ移動した。

今からそっち行く ?

いつだったか、保存したメールを削除したくなった。 指が自然、そちらへ向かってボタンを押し続ける。


変な期待、持たせないで下さい
私は、いつだって誰かの脇役、


泣き出したい気持ちで胸がいっぱいになったが、襖一枚越しではすぐにばれる。 流すまい、流すまい、瞼を閉じて目尻の熱が冷えるのを待って、ようやく目を開けた。
壁にかかった時計が料理を仕込む予定時間になることを告げている。

そして今日も仕事に精を出す。 こうしていれば、たまに思い出して虚しい気持ちになることはあっても、辛いことは全て忘れることが出来ると幼い頃に覚えた。
脇役からヒロインに上がるには、まだ程遠い。


なあ、俺ら付き合ってみねえ?


結局また、あのメールを削除することは出来なかった。









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ホロ→←たまは可愛いと思います。 私の中ではお互い少しばかり意地っ張りなので擦れ違ってばかりです。
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