【ヘンゼルとグレーテル】

 昔々、森の近くにのんびりと暮らしている一家族がいました。
 お父さんは仕事という仕事は多分、やってないんじゃないかと疑わせる仮面男、お母さんのパートでなんとか生き抜いて来た兄弟は双子という家です。
 しかし、ある日忽然とお母さんはいなくなってしまいました。
 プー太郎のくせにパチスロ行ってんじゃないわよ!が兄弟が聞いた母の最後の言葉でした。
 生活能力のない父は早々に再婚相手を見つけ、暮らして行こうとしましたが、新しいお母さんは大層ケチでした。
 食費を切り詰める算段をしていたら、ある日思い付いたのです。
 双子さえいなければ良いと。
 そして彼女は簡単に仮面パンツを説き伏せて、翌日パンツは子供二人を引き連れて、森へと行きました。
 なかなか深い森で、一度迷ったら出て行くのは難しそうでした。
 父は昼食に得意のBBQをし終わったころ息子に話を切り出しました。

「なんかねー、お義母さんとも話たんだけど、ハオも葉ももう餓鬼じゃないんだから独り立ち出来るでしょ? そろそろお別れしよっか」

 兄弟は顔を見合わせてもう一度父の顔を見ました。
 昔から、表情は読みにくい父であったのに、今は仮面の目の辺りから涙を流しています。
 うっかり拍子抜けしてしまった兄弟は無言で父を見つめました。

「さらばだ、息子よ」

 現実味が無さすぎる別れに戸惑い、気が付いたら父の姿は森に消えていきました。

「…だって。どうする?葉」
「BBQセットは残ってるから生きていけるだろー多分」

 葉は最後の肉片に齧り付きながらそう返しました。
 ハオはぐるり、と辺りを見回してみましたが、右に木、左に木、上も木、下は草、見事なまでの森っぷりに頭を悩ませました。

「危険だよ、葉」
「そうかー?」
「こんな何も無いところで楽しみを見出だしてしまったら」
「どういうのだよ」

「欲求不満になった僕が葉に〇〇〇」
「そいつは危険だ」

 兄の変態発言はスルーして、葉は立ち上がりました。

「じゃあ散策でもしてみっか」

 しかし、こんな所に何かあるはずもなく、二日、三日と日だけが無情に過ぎて行きました。
 木の根元に座り休む兄弟のうち、葉の腹の虫が盛大に鳴きました。

「…出口も見つからん…もうヤだ、オイラ貞操の危機…」
「迎えちゃえよもう」
「お前なんぞにバージンは渡さん…」

 ハオの腹も葉のように鳴り、パシンと自身の顔を軽く叩きました。

「葉に聞かれちゃったー」
「安心しろ、オイラはお前の屁の音も聞いたことはある」
「もう生きてけない…」

 理由がショボいな、と葉は思ったけれども、良い匂いが漂って来て突っ込みは中断しました。
 葉は兄を置いて、匂いのする方向へ向かいました。
 するとそこにはお菓子で出来た家があったのです。

「ハオ!すげーもん発見!!」
「どれ……うわ、思いっ切りファンシーな…」

 どういう趣味してんだ、とハオが毒づくのを横に葉は真っ直ぐその家に向かいました。
 手がギリギリ届いた屋根を触ると、意外にもあっさりと割れてびっくりしました。

「うおっ!?マジでお菓子だ!!しかもウマっ!!!!」

 葉はハオを手招きして、嫌々ながら近寄って来たハオに食べかけを渡して自分は新しい箇所を食べ始めました。

「おぃ。誰だぁ、俺様のベストプレイスをバリバリ食い荒らしてるのはぁ…」

 板チョコで出来た扉を開けたのは家の割には長身のリーゼントでした。

「おうおうおう、どーしてくれんだお前ら」
「す、すまん、いかにも食ってくれと言わんばかりに菓子だらけだったから」

 男のリーゼントの形が葉を見た直後、中央部で凹んだのをハオは見逃さなかった。
 断片面はハート型になっているのだろう。

「罰としてそこのロンゲ!来い!!」
「はぁっ? って、ちょっ、痛い、痛い、髪引っ張るな時代遅れ!!」

 男はハオの髪を掴んで家の中へ入って行った。
 葉も条件反射で二人を追って、結局家の中へ入ってしまった。
 男はハオを牢に閉じ込めると高笑いして言った。

「いいかぁ、俺様の家を荒らした罪でお前を人買いに売りさばいてやるからな!!」
「あのさー、食べてたのほとんど葉…弟なんだけど」

 ハオは面倒臭そうに頭をかきながら、ジロリと葉を見た。

「お前は俺の所で働け。なかなか楽な職場だぜ」
「乗った」

 葉は自分の好きな単語が出た瞬間、今まではらはらと様子を伺っていたようだったのに裏切った。
 仕事内容も分からないのに。
 あのバカ、とハオは二人が食事を作りに牢屋を離れていた時に床を手頃な石が落ちていたので拾って何度も打ち付けた。

「うっせーぞガキ!!」

 男がハオに食事のお裾分けを持って来た。

「葉は?」
「葉の旦那はお食事中だ」

 立場逆転してないか?そのくらい形勢逆転してるなら兄ちゃん助けろよ!!と気持ちが疼き、青筋をたてながらまた石を打つ。
 ときどき、火花が散っている。

「うるっせー!!殺されたいのかロンゲ…」

 男がハオを閉じ込めている牢の格子に近寄った瞬間、火花が丁度散った。
 硫黄が焦げた嫌な匂いがする。
 リーゼントがぷすぷすと燃え始めている。

「俺の髪がああぁっ!!!」

 男が我を忘れたのを見計らって、ハオは男の腰にかかっていた鍵束を抜き取り、牢の鍵を開けて、颯爽と飛び出た。
 牢に繋がってる部屋がダイニングらしく、本当に葉は食事中だった。

「行くよ!葉!!」
「うえっ!?」

 ハオは葉の手首を掴み、お菓子の家から猛スピードで去って行った二人はへろへろになって、幸運にもBBQセットを発見し、そこで休んだ。

「……オイラまだ食べてる途中だったのに…」
「僕は何も食べてない」
「竜が親切に持ってってたろ」

 あいつ、竜って言うのかと思った。
 そのとき二人は聞き覚えのある声を聞いた。

「葉ーっ!ハオーっ!!」
「あ、父ちゃん」

 葉の声がして、仮面は振り返り駆け寄って来た。
 そして二人に手を差し延べる。

「さぁ、僕らの家へ帰ろう」

 少し、柄にも無く二人は感動して父を見た。

「どうしてさ、幹久。義母さんがいるだろ」

 ハオが涙目になりながら質問した。

「…いやー、それがね、早々と嫌気をさされてねー。で、よくよく考えてみたら、二人が働いてくれれば良いって気付いちゃって」

 父の言葉を最後まで言わせる前に双子の兄弟は互いに目を合わせて脚技を父の顔面目掛けて放った。
 森の近くにのんびりと暮らしている家族は寄りを戻して、親父を更生させながら日々を過ごしましたとさ。





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