シャーマンキングが決まって少し経ったころには、二度と戻れないと思ってた日々と似た日々が戻ってきた、違うのは、ファイトに関わった者たちの心、それを踏まえた上では、日常には戻れない。
それでも葉は昔と同じ日課を繰り返していた。阿弥陀丸の首塚(ボロボロ)がある、ふんばり霊園の樹木に寄り掛かって変わり行く空の色を見ながらうとうととしている。
その隣に腰かける阿弥陀丸も目を閉じて休んでいた。目を閉じて思い出すのはそこで数年前、ファイトへの資格認定試験があったこと。突如、強い風がもたれ掛かる木を大きく揺らす。
シルバは強かった。
まだオーバーソウルを知らなかった葉は彼の持ち霊からいいように躍らされていた、そう、たしか今の風圧のようにバッファローの精霊によって少し小高いこの丘から吹っ飛ばされたり……吹っ飛ばさ

『………ぬ?』
「お、おおおおぉぉぉっ!!!!!!!!?」
『葉殿おぉぉぉぉっ!!』

阿弥陀丸が目玉を飛び出させている間に、葉は空中に放り出された。



ずささっ、とよろしくない音がしたが、なんとか地面と仲良くならなかったことが幸いだ。

「イテテ……」

何がどうやってか知らないし、こんな非現実的なこといくらなんでも有り得ないと思っても実際問題おこっちゃったからしかたない。一度、目をかたく閉じて大きく瞼を押し上げた。
この光景は、見たことがないというか。
どこだここは。
低木がクッション代わりになってくれていたとは言え、無様な様子には変わりなく、葉は付着した汚れを叩きながら立ち上がる。
常に自然と一体化することを楽しむ葉はすぐに、今、自分がいる場所は近くに川がある森山であると判断した。

時刻はとっぷり日が暮れた夜で、やけに星がクリアに見える。

ホウホウ、と鳴きながら飛ぶフクロウの動きにビクッと驚いた葉はその後、背後でガサガサと音が鳴ったことでさらに心底冷や汗をかいた。

「だ、誰だ!?」
「……妙な格好した、おまえこそ誰だ」

振り返ると、ボロボロになった衣服を纏った長髪の少年が訝しい目付きで葉を見据えている。
そして、その魂は、

「はおって誰?」

驚きで葉の目がさらに点となった。
今や懐かしいこの心を読まれる感覚

「……うええぇぇぇぇっ!?」
「な、なんだ!?ビックリさせるな!」

少年は、自身が驚いたことに憤慨しながらも、葉から目を離さない。だんだんと好奇じみた視線を投げ掛けるようになった。

「おまえ、ミライから来たのか」
「……ああ」
「霊が見えるのか」
「そうだな」
「僕と同じだ、初めてだ、見える奴と会ったのは」

嬉々とした笑みを素直に浮かべる少年は、葉への警戒を解き、近寄る。

「名は葉というのか」
「な、なあ、頼むからオイラと口で話して納得してくれ、読まれっぱなしは恥ずかしいんよ」
「この鬼の力、怯えないのか。ますます気に入った」
「……おまえ、名前は」
「母上が麻の葉だから、……麻葉童子と呼ばれている」

少年の顔が空白の間、一瞬暗くなった。
よく考えたらハオのこと、あんまり知らないな、と考えながら葉は「ふーん」と返す。

「葉はミライから来たんだろ、なんか面白い話とかないの?」
「いや、下手に喋ったらSFでよくある感じで未来世界が狂うとかあるかもしれないだろ」
「なに、えすえふって」
「……未来語」
「ふーん」

葉を真似たように鼻で返事をした少年と顔を見合わせて、二人して破顔すると葉の腹がぐぅ、と鳴り、あちゃー、と恥ずかしげに照れると少年は葉の手を川辺へと引き誘った。

「よし、葉のために僕が魚捕まえる!」
「ヤッター、ガンバレ」
「その間に葉は火をおこしててね」
「うえっ、どうやって」
「ダメだなぁ、葉は」
「スマン」

何もできない葉に代わり、少年は石と木々を駆使して火をおこすとその明かりを頼りに川魚を狙う。その様子を遠巻きに声援を送る葉に少年は手伝えと文句を叫びながらなんとか2尾を手に入れ、おこした火に捕まえたばかりの魚に枝を刺して焼きはじめ、焼終わった魚を葉に渡し、自分も食べる姿にほとほと感心する。
しかし食べ終わるやいなや、葉をまたもや質問攻めにしだす少年にたじろいだ。

「ねぇ、葉が考えてるしゃーまんふぁいとって何?」
「この世で1番強い霊と友達になること、かな」
「しゃーまんきんぐ、は?」
「1番強ぇ奴が王って呼ばれて、その霊と友達になった奴のこと」

どこまで読まれているか分からないが、質問自体には隠さずに話しても大丈夫かと思った葉は慎重に言葉を選びながら話した。

「! 僕、“王”って漢字書けるよ!」

ほら、と少年は地面にその文字を書く。すげぇな、オイラこんな上手に書けないぞ、と返すと自慢げに、でも誇らしげに胸を張って返された。
直後、少年の表情が強張る。
何事かと思っていると、葉の身体が少しずつ透けている様子が自身で見てとれた。

「葉、行っちゃうの?」
「っていうことか?オイラもよく分からんのよ」
「せっかく、見える奴と知り合えたのに」

ぐずつく少年の目元が揺れる。
たまらず、葉は少年の頬をその両手で包んだ。

「男だろ、泣くなよ」
「また、会える?」
「………会えるんよ」

一瞬、躊躇いながら葉はそう言うとはにかみ笑いを浮かべて少年を見た、嬉しそうな表情を浮かべていた





よく見たら阿弥陀丸が。

『葉殿おぉぉぉぉっ!目が覚めたでござるかっ!!拙者、生きた心地がしなかったでござる…!』
「お、おぉ、スマン」

阿弥陀丸渾身のボケもスルーした葉は自身の状態を確認した。

「イテテ!」

低木がクッション代わりになったとはいえ、葉が落ちた枝に擦れたため裂けたりした服には少し血がついている。髪には白色の小さな花がくっついていた。
さきほどとは打って変わってすっかり見覚えのある風景に首を傾げる。

「なんか変な夢見たんよー……」
『変、とは?』
「時間旅行?みたいな」
『ふむ?』
「まあいーか。風呂入りたいし、帰るぞ阿弥陀丸」
『承知』

ふあぁ、と欠伸をした葉の後ろに阿弥陀丸は憑いていく。
しかし、妙なところに妙な低木があったものだと思った。あれは、ハシドイの一種なのだろう。



「…オイラもそうだってのに。あいつばっか」
『何がでごさるか?』
「んー、気にすんな!」

君にまた会いたい




今度は優しい風が吹き、白色の花がふわりと揺れた。





2011.5/12 HAPPY BIRTHDAY 双子!

5月12日、誕生花『ライラック(白)』花言葉『無邪気、若さ』
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