※麻倉≠双子
※葉年上























職員室は昔から嫌いだ。
校長の手下である教頭がじろじろ見詰める、言葉を変えれば監視するなか仕事しろ、なんて拷問以外のなんでもないだろう。 臨時教員には可哀相だが常勤のある一定の教科、まあだいたいは主要五科目とか言うヤツの教師たちには職員室とはまた別に教官室が与えられている。
教頭に目を付けられたくなければ、おとなしく職員室で予習なり試験作成なり採点なりすればいい。

だけれども、ぶっちゃけこの職に愛着も何もへったくれもないからどうでもいい、と毎日毎日授業がない時間はたいていそこに逃げ込む教師がひとり。
そして本来教員以外立入禁止になっているそこに忍び込む生徒もひとり。


「麻倉せーんせー、お昼食べよー」
「…………また来たんか、ハオ」


さすがに教員室に出入りする生徒を良しとしていると怒られるのは困るから毎度毎度、友達と食べろ、と言ってもどこ吹く風。
げんなりしてきた今日この頃である。

対してハオは口笛を吹きながら狭い部屋の中央にある長テーブルの葉のパソコンとは正反対位置に座り、持って来たコンビニの袋からコーヒー牛乳とパンを取り出した。

何を言っても効かないため、一応これみよがしに溜め息。
そして葉も鞄に入れていた弁当を出してテーブルの上に置いた。


「パンばっかだと栄養片寄るぞ」
「じゃあ先生作って」
「なんでオイラが」
「貴方のことがぁチュキだからぁ」
「だーもう、誰だお前。はいはい分かった分かった」
「やったね、せんせー大好きー」


へらり、と笑ってパンを口に含んだ彼を見て苦笑した。 整った顔立ちも相俟ってそこそこ人気があるだろう、と推測はできるのに何故あえて自分と昼を過ごすのか、やはり理解出来なかった。


「ハオは一人暮らしだったっけなー」
「そうだよ、センセと同じ」
「ちっげーよ、オイラは可愛い恋人と半同棲中」
「………へぇ、ホントに?」
「他言無用だぞ」
「……わかった」


そう言ったハオは葉の弁当に手を伸ばして玉子焼きを摘んだ。


「あっ!」
「口止め料………って何これ、甘っっ」


もぐもぐ食べていた顔がだんだん眉を寄せてなんとも言えない顔になっていく。


「そうか? オイラは好きなんよ、その甘さ」
「もう少し塩効かせて、砂糖控えたら?」
「オイラにそうやってどうこう言う前に自分で自分好みに作って食えば良いだろ」


むっ、となってそう言い返してウィンナーを箸で刺した。 口に運んでもぐもぐしているとハオは少し考えるように葉を見た。

ふ、と時計を見た葉が慌てて残りの弁当を掻き込んだ。
まだ先日の小テストの採点をしていないクラスの授業はこの後だ。
生徒のいる前で採点など普通はしないけれども相手はハオ、あまり干渉して来るのも来られるのも好きではなさそうなので、個人のプライバシーという名の点数の可否は興味がなさそうなので守られているから良いだろう。


「ねー、センセー良い事思い付いた」
「んーなんよ?」


しばらくしてから突然話し掛けられ、採点片手間に適当に相手をする。 直前に強調して言ったのに間違えられた、としかめっつらになった。


「明日さ、互いに弁当作って持って来て交換して食べようよ」
「おー」
「よし、約束だからね」
「わかったわかった、ほら、そろそろ掃除始まんぞ」


自分の担当の掃除場所にはぎりぎりに行けば良いやと思いながらハオを追い出した。 「失礼しましたー」と声だけは残して出ていくハオの足音が聞こえなくなった頃にチャイムが鳴った。

採点結果に頭を悩ませ、今日の授業は気合い入れなきゃな、と思い背中を伸ばして首を回すとバキバキ、と音が鳴って、微妙に痛み、患部を押さえてボールペンと印鑑を持って持ち場へ向かった。



家に帰る頃には気合いを入れすぎた授業に疲れて、クタクタになり、習慣で風呂を沸かし、晩御飯を作って食べて風呂入って、までは良いが、明日の授業の予習をしようと意気込んだにも関わらず、爆睡していた。
予習は朝目覚めてから始めたために、今日に限って節約弁当を作れなかったが、昨日のハオとの交わした約束を微妙に覚えていたが、今日は向こうは弁当持って来てるから良いか、自分は売店で、と開き直って学校へ向かった。

昼休み直前の授業だったにも関わらず、財布を教官室に置いて来たままだと、教科書を読み上げてもらっているときに気が付いた。
内心、あちゃー、と思いながら授業を進め、終了のチャイムが鳴った瞬間売店へ駆け出した生徒に向かって「オイラの分残しておいて」と念じた。

仮にも教師として廊下は走れないので、早足で財布を取りに向かった。
目的を達して、次なる目的地へ向かおうと部屋を出ようと後ろを向いたら、ちょうど着いたハオと目が合った。


「ハオ悪いけど、オイラ弁当忘れたから購買行って来んな」
「え? 忘れたの……」
「スマン、明日絶対だから」


残念そうにしたハオに焦ってそう返したのに、何故か数拍おいて急に悪戯っ子のような笑みを浮かべられた。
ハオが部屋に入って後ろ手に扉を閉めた、直後にカチリと音がした。


「って、なんで鍵閉めるんよハオ」


指をさしながら非難めいた声で葉がハオに近寄るとその手首を握られ引き寄せられた。
顔近っ!と焦った葉を他所にハオは終始笑顔のままだった。


「実は僕も持って来てないんだよねー」
「そ、そうなんか、じゃあ一緒買いに行くか?」
「だから僕を召し上がれ(笑)みたいなノリのつもりだったんだけど、ラッキーってことで」
「は?」


なんだか良く分からない、というか理解しない方がいい気がして、とりあえず勢いよく後ずさったが、急に尻に角が当たって、勢いで後ろにこけた。 ついでにハオも葉の腕を掴んでいたためぎりぎりで葉の頭が打つことはなかったが、咄嗟に彼を支えたために広げた手は両方とも葉の腕の自由を奪っていた。
いつもは重宝していたはずの長テーブルを呪った。
あー、逆の体勢だったら身に覚えがあったりするなーと思いながら、とりあえずヘラリと笑うと、ハオも微笑みを返した。


「…………オイラ恋人いるんよー」
「大丈夫、僕好みにしていくから」


会話が成り立ってない!と叫ぼうとした口が塞がれた。
少しは予感していたはずなのに、準備なんかしていなかったのに、いきなりのフレンチ



息がまともにできません!



「葉先生、いただきます」












壱萬打企画、学パロハオ葉
神谷様リクありがとうございました(^O^)/

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -