シル→葉








夜の黒にくすんだ白に近いベージュ色が基調となったマントは案外目立つ。 数人目のシャーマンファイト予選立候補者の立ち合いを終えてシルバーウィングの力を借りて飛んで行ったものの、現代日本でかっこよく空を飛び回り次の目的地へ行くことなど到底難しかった。 あれは何だ、蝶だ、鳥だ、いやスーパーマンだ!なんて方向にさえいかず、あっさり110番、よくて気象台に連絡されるくらいだと思われる。 あそこにユーフォー出るんですかーなんか言って。

「シルバーウィング、そろそろ降りようか」
『わかったわかった』

人通りのない、街灯も少ない路地に音もなく着地した。
見るからに怪しい外国人だというのに何とか借りることができた安い風呂なしボロアパートまで歩いて10分弱の距離だ。

『ようやく見所のある担当候補者が現れたね』

シルバーシールドの言葉に目を閉じて笑った、つい先程、オラクルベルを勝ち得た少年だ。
遠巻きで見ていたときから面白い少年だとは思っていた。

「ああ、よかった、クロムも面白い子に出会ったと言っていたからこれでイーブンだ」
『ちょっと、競争じゃないでしょ』

シルバーロッドの突っ込みに笑いながらアパートのドアを開けた。
昨日引きっぱなしだった蒲団を股越して暑苦しいマントと試験官服を脱ぎ、台所の蛇口を捻り、タオルを水で浸して身体を拭く。
汗が引いて、適当にラフな服装を身に纏うと、彼のオラクルベルが鳴った。

頭をタオルで拭きながらベルの電子パネルを見た。
頭が一気に冷えた。
目の瞳孔が開き、急いで鍵もかけずに外にでる。



ジュッサイシクロムグレートスピリッツノモトヘカエリタリ



嘘だ、嘘だ、と念じながらクロムが死んだとされる場所に向かって一心不乱に走った。



嘘じゃ、なかった。












ぶに、と頬を抓られ、そのあまりにもしつこく引っ張り続けられた痛みに堪え兼ねて「いててててててて」と言いながら目覚めた。
パッチ村の十祭司用仮眠室で、たしかにパッチ式日時計ならぬ通称グレスピ時計は仮眠交代の時間になっている。

「起きろ」
「起きてるだろ! おまえの起きてる基準どんだけ高いんだ!」

ばしぃっ、とカリムの腕を叩き払ったらついでに余計あまり伸びしろのない頬が無理矢理伸びて激痛が走ってやっと自由になった。

「なんだシルバ、怖い夢でも見たか」
「……バッキャロー、テメェのせいだ」

カリムが目が赤い、と言いたかったのか、目尻を示しながらそう言い、少し動揺したが、頬を押さえながらそう返した。

「おまえの担当の麻倉葉が、村に着きそうだ」

モニター室を指さしながらそう言ったカリムを押し退けてモニターを見に行った。

葉くんと共に来た選手たちは個性的な面々で、そんな彼らをゆるくまとめてるようだった、不意に姿が重なる。 重ねた姿が胸を締め上げるのを感じた。
後から来たカリムに白い目で見られている気がして、急いで強がる体を見せなければ、と思った。

「やっと来たな、葉くん――」

ハオの一派の奴もいたが、直後に置いて進み出している。

彼らがグレートスピリッツの祝福を受けるのはほんの数分しない内だろう、あとは真っ直ぐ歩けば良いだけなのだから。

「シルバ、カリム、ブロン、そろそろ行くが良い」
「「「 は 」」」

ゴルドバから言われて3人はモニター室から出て村の入り口へ向かった。
グレートスピリッツの輝きに耐え切れず、倒れてしまうだろう選手たちを安全な部屋に連れていくためにだ。 放ってしまったら先に着いていた選手たちに殺されてしまう可能性だってなくはない、そんなことでシャーマンキング候補たちの数を減らしたくなどないのは当たり前だ。

入り口には既に人影が俯せに倒れている。

「………ありゃ、先にヤられちまったな」

そう言ったブロンは直ぐさま後ろを向いて来た道を戻って行った。
人影の数は4人分、内3人はシルバの担当で1人はカリム、しかし、モニターには確かに5人の集団だった。
言葉の意味を察して何も言わなかったが、少しも探してやろうという気さえない態度が気に食わなかった。

手っ取り早く、近くに倒れている木刀の竜の上半身を持ち上げて肩にかけると同時にゆらり、と倒れていたはずの人影が立ち上がり、真っ直ぐ光り輝くグレートスピリッツを見据えていた。

「……………」
「道蓮、ここまでの道ご苦労様、さあ、休憩室に行こうか」
「休憩など必要もない、そいつらと違ってな」
「…………!」

グレートスピリッツに圧倒され、二度と起きることもない人間もいるというのに何と言うことだ、と口をあんぐりさせてしまった。
そのまま蓮は「行くぞ馬孫!」と言って村の繁華街へ向かう。

「…………参ったねぇ……流石と言うべきか」

彼の背中を見つめながらそう呟いている内にカリムはさっさとホロホロを肩に担いで選手休憩室に向かっていた。
協調性ねぇな!と内心喚きながら葉の元へ向かう。

竜を背に、葉はどうしようかと思っていると、シルバーウィングが『しかたねえな、小僧の方運んでやるからオーバーソウルしろよシルバ』と銀細工の指輪から出て来た。

「どうせなら竜君運んでくれないか?」
『ぜってー嫌だ、そいつの方が重いじゃねぇか』

ですよね、分かってましたよ、とシルバはシルバーウィングだけオーバーソウルして葉を任せた。
ちらり、と眠る葉の横顔にまったく似ていないはずの親友が重なった。



シルバの担当選手たちを寝かせるために用意された部屋に着くと、とりあえず二人を横にして、グレートスピリッツの祝福から目覚めるのを待つことにした。

あらためて見ても、やはり親友とは似ても似つかない。
だけど、何かが似ている。 一緒にいると思ったときの安心感だとか、そういうのが。

竜を寝かせた後、シルバーウィングから葉を受け取り横にする。


(……あたた、かい…)


最後に触った親友は冷え切っていたことを、夢のおかげか無駄にリアルに思い出した。 重ねたくないところまで重ねて見てしまう。
葉の頬に触れる、汗ばんでいたが、実に健康そのもので、二度と目を覚まさないなんてこともないだろう。
親友だ、親友だと思っていたクロムに抱いていたような気持ちと似たようなものがあるのではないかと俄かに感じた。

あれが何だったのかだなんて、今も特に知ろうとは思わない。

幸せの定義とか愛の理論とかそんな難しいものより、ただ体温を感じたい


竜が寝返りをうっている。 そろそろ目覚めようとしているのだろう、相変わらずタフな男だ、と笑い、一度倒れた身体に良いだろうと思い、大きめのマグカップを二つ持って、魚とバナナのスープを注ぎに行った。













10000フリリク:シールケ様/シル→葉
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