葉明はふぅーと長く息を吐いた。
肩に手を当て、首を一回、二回と回し、左右に一度ずつ傾ける。
ときおり鈍く音が鳴った。

「…わしも年を取ったものじゃのう…」
「何を言ってらっしゃるのですか、葉明様」

たまおが葉明に茶膳を持ってきていた。

「おぉ、たまお。ありがとう」
「いえ、これくらい当然のことです・・・あの」

たまおはおずおずと口を開こうとしていた。
引っ込み思案の彼女を思い、葉明は柔和に笑うと彼女の質問のつづきを尋ねた。

「…葉様のお具合なのですが」
「良くないか…」

たまおは黙り込んだ。
肯定の意以外の何物でもない。
葉明は眉間をつまみ首を振った。

「なぜこうも事件ばかりが立て続くのか…」

葉明はたまおを手招きすると、近くに寄らせ、新聞を見せた。

「この話、知っておるな?」
「は、はい、幹久様がお調べになられている事件ですよね?」

葉明はうむ、と首を立てに振った。

「世間的には、まだ捜査の糸口すら掴めていない状況だ」
「?」

たまおは葉明の言葉に引っ掛かりを覚え、眉を顰めた。

「…幹久には伏せておくよう命じた、とても信じがたいものが犯人でな」
「見つかってるのですかっ!?」

「吸血鬼だ」

たまおは、「へ?」という顔をしていた。

「想像上だけの存在。そう思われてきたが、事実、そうではない。
はるか昔、我々の先祖と彼奴らの間で契約が結ばれていた。
が、しかし、時折、向こうの方から謀反人が現れることがある…」

「で、では、今回の事件も…」
「そのとおりだ」

葉明は冷めかけ始めたお茶をずっ、と啜った。
お茶の葉がユラユラと湯飲みの中で揺られている。

「葉が外に出た、そのときもしや目を付けられたかもや知れぬ」
「ですが、たしか女性ばかりを狙っているのでは…?」
「奴らには老若男女など関係ないことだ。ただ、人目を避けて犯行に及んでいるあたり…犯人の吸血鬼は男だろう」
「ナゼでしょうか?」
「人目につかないところ・男女の関係」

は、とたまおは意味を解し、ぼっ、と顔を赤らめた。

「異性のほうが誘いやすいのは一目瞭然のことだ」

まったく、と葉明は肘置きに肘をついて、頭を拳に乗せた。

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