ふわ、と部屋の窓から風が入り込んできた。
緑の良い香りがする。

少年は外に手を伸ばし、外の空気を感じようとしていた。
陽が暖かい。

外に出たい。



「葉様?」
「ん、たまおか」
「葉明様がお呼びです」
「…じーちゃんか…」


話なげぇよ、絶対。と顔に書かれている。
それを見て、たまおはクスクスと笑った。

「分かった、サンキュ」
「はい」









「・・・・・・・・・」
「・・・・・・葉や」

長い沈黙の後、ようやく祖父は重い口を開いた。

「お前が、屋敷を抜け出していたことは当に皆知っておる」
「…うぃ」

彼は人に感染する病を持っているため、外に出ることを許されていなかった。
被害を最小限に抑えるためだ。

「夜だったからまだ良いものを…」

ふぅー、と祖父の鼻から煙が吐き出された。
こう云う気まずい時にでさえ、それを見ると笑いを堪えてしまう。

「今後、勝手をしたら」
「分かった、分かったから祖父ちゃん」

その先を言わんでくれ、と葉は手で制した。

「…葉、その日、誰かに会わんかったか」
「・・・・・・いや」

そうか、と祖父は安堵したかのように目を瞑った。

「近頃は物騒だからのぅ、夜にフラフラされたら年寄りの身が持たんわぃ」

いいや、この爺さんはあと300年生きる、と内心突っ込みながら葉は笑った。



 誰かに会わなかったか、



一瞬、ひやりとした。
会ってはいない。

ただ 見た。

ふたりの人影

ひとりは闇に消え、ひとりは土に消えていた。


顔は見えなかった、だけど
それは、酷く恐ろしいと思った。


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