Evening

時は12月。
比較的今年は暖冬だと言われても、そんな事大嘘に決まってる、と吠えたくなる寒さだった。

「うー、さびーっ…」

コートを首まで上げて、それを紛らわそうとしても、そのくらいではなんとかなるモノではなかった。

「フン、情けないな葉。オレの故郷ではこんな寒さくらい…」
「あー分かった分かったから、蓮。」

葉は蓮を宥めると、手に提げていた袋を再度見た。

「ほんと、ありがとな。助かったんよ。」
「フン、借り作ったからな。」

蓮が恩を着せるような態度をとるもんだから、葉は、今度桃マン買ってやる、と嫌味を含めて答えた。

「あー。冬だなぁ…。」

そんなに大きな街でもないが、店が建ち並ぶ大通りはイルミネーションが多少、うざったいくらいに輝いていた。各店で、このお祭り騒ぎに拍車をかけるように、外に出て、チラシを配ったりもしている。歩行中、突然頭を下げられ、配られるとうっかり、何も考えずに受け取ってしまい、捨て場に困るのだ。

「う〜」
「葉…受け取りすぎだぞ。」

もちろん、葉もその一人で、片手には袋の山。もう片方には、チラシの山だった。

「…ちょっとスマン、蓮、この袋持ってくんねぇか?」
「まったく…」
「うぇっへっへ、サンキュな。」

葉はチラシを整理しようと、蓮に荷物を預けた。

「ぃっ…つっ!!」

どうやら紙のチラシだったから、手のひらを切ってしまったようだ。

「…何してるんだ、葉」

蓮は呆れて葉を見つめた。

「切った…」
「まったく…貸せ。」
「うえ?」

蓮は葉を引き寄せ、彼の手のひらに自分の口を近付けた。

「………っ!!??」
「舐めとけば治るだろ」
「…あぁ、そうだな。」
「なんだ、ヤラシイ事でも考えたのか?」

蓮は馬鹿にするように笑った。

「ちっ…違う…!」
「どうだかな。」
「蓮、からかうなよ!」

口を尖んがらせて文句を言うと、蓮は小さく笑い、葉もつられて微笑んでいた。

「じゃ、オイラこっちだから。」
「あぁ。」
「じゃあな〜」

曲がり道で別れると、葉は帰路へ向う。
ヘッドフォンで聴いている曲を鼻歌で刻みながら、歩みを進めていた。

「葉」
「……?」

ヘッドフォン越しに聞こえた声の人物にいまいち確信を持てずに、声がしたハズの後方からは誰もいない。
聞き違いかと思い、また進行方向に向きを換え、小首を傾げて、数歩進んだら、腕を引っ張られ、突然の事だったので、抵抗も何も出来ずにされるがままになった。

「うおぉっ!?」

壁にぶつかりそうになり、目を閉じて衝撃を耐えようと構えたが、いつまで経っても、そんな痛みはなかった。
恐る恐る目を開けると、女みたいに長い髪が視界いっぱいに広がる。上を見ると、そこには先程自分に声をかけただろう人物。

「…ハオっ!」
「うん?何だい?」

最上級の笑みを浮かべて、葉の腕はしっかりと掴んでいた。

「あのぉ…なんで、こんな狭い所におるんよ?」

路地裏らしいその場所は狭すぎ、二人は密着した状態だった。

「ねぇ、葉。そんな事はどうでもいいから、…さっき蓮と一緒にいただろ?」
「!!み、見たんか…??」
「うん、バッチリ」

葉は胃に氷が落ちたように感じた。嫌な予感が胸をよぎる。

「っ、!」

ハオの冷たい、綺麗な指が葉の頬に添えられた。

「で、手にキスされて真っ赤になってたよね…?」
「あ…れはっ!紙で手ぇ切ったって喚いたら、蓮が手っ取り早く治す為にって……!」

ハオに抗議の声をあげると、指は頬から首へと移動され、葉は驚いて身体を竦ませる。

「…本当にそれだけ?二人で買い物だったらしいしねぇ…」

ハオの目は、葉の手にある袋を映していた。

「み、見んなよっ!?」

葉はその袋を自分の背後に隠した。

「…何?隠すような物なの?」
「ち、違う…けど…」

葉の様子から自分に隠し事があるのは丸見えで、悔しくて、気が付いたらハオは葉の口を自分ので覆っていた。

Nerves

「……っ…ハオっ」

いきなりの出来事に葉は驚き、また、呼吸を忘れてしまっていたので、息も荒々しく、ハオを責めたてようとした。

「…い、いきなり何なんよっ!ちゃ、ちゃんと前持ってくんねぇと…」

葉が口を自身の手の甲で拭う。
すると、ハオは悲しそうな笑い方をしてこう言った。

「…そんなに、僕とのキスは嫌?」
「へ?」

ハオは葉の手をまた掴むと先の蓮と同じように手のひらに口付ける。
そのまま、葉を見つめると、彼は頬を染めて、そっぽを向いた。

ハオは見えた葉のうなじを攻めたてはじめ、葉はそれに抗う。

「ゃ、め…」
「止めない。」

葉が持っていた袋を落としたが、ハオは気にも止めずに続けた。

ハオは葉のコートの第一ボタンを外し、うなじから鎖骨の方へと舌を滑らす。

「っ………ふっ…」

なるべく、声を上げないように我慢していた葉にも限界が訪れたのを見計らい、ハオは彼のコートのボタン、全てを外し、上着の下から手を入れようとした。

「ねぇ、葉。今日は、僕ちゃんとデートしようって言ったけど、用事あるって断ったよね?」
「…ん…っ」

その細い腰にまわされた手に身震いしながら、葉は懸命に応える。

「用事って何?蓮と?蓮と葉って何?」
「ぉ、…オイラが、蓮に頼んだんよ…」
「何を?」
「………」

やはり、葉は答えない。
ハオは苛々して、また葉の口を塞いだ。
さっきよりも深く。

恋愛はゲームだ

だれかがそんな風に言っていた。
彼はそれに同意だった。
だから、極力、霊視は使わない。

デートに誘った。
断られた。
別に用事があるなら諦める。
だけど想い人は、葉は、ハオが気紛れに現れた街に、他の男と一緒にいて。
そいつに手に口付けられて。
赤くなって…。
そいつは何?
葉の何?
僕は何?

ハオは酷い気持ちに襲われた。

「っ……はぁっ…」

葉に当たる自分は情けないとは思う。
だけど、思考と行動は必ずしも伴うものではない。

葉の力が全体的に抜け、ハオは自身の足を葉のそれの間に挟んだ。

「やめっ……ハオ…!」
「葉が、ちゃんと僕になんでアイツと一緒にいたのか、教えてくれるなら、止めてもいいよ?」
「………っ」

ホラ、また葉は答えない

ハオは葉の上着を捲り上げ、愛撫しながら、己の舌をも使い、葉を徹底的に苛め抜こうと誓った。

「…はぉ……っ…」


葉の哀願する声など、まったく耳に入るはずがなかった。

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