「…………いってー」



とぼとぼと川沿いの道を上って行った。
突然喧嘩を吹っ掛けられ、フツノミタマノツルギや阿弥陀丸を置いたままプチ家出をした花の制止も聞かずにアンナと名乗った少女はお構いなしとばかりにオーバーソウル、攻撃を繰り返した。
当然、花は体を張った攻撃をしようとしたが、相手は女の子。 女ばかりに囲まれた生活から知らず知らずのうちにフェミニストに成長していた彼には彼女の顔や身体や瞳などを見ただけど本能的にストッパーがかかる。

何十個目かのかすり傷を負った段階でアンナは「ふん、たわいもない」と言い捨ててそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。

「! あ、おい待てよ!このアm」
「何よチビ」

その威圧感自体は花の知る他の人達の比でもない。主に怖いのがたまお母さんだったりする。本物の親であるあの二人は正直甘い。
なのに、この少女の一睨みに敵わなかった。

発言が続かない花を見捨てたように“イタコのアンナ”は歩き出してしまった。

心の中でヒュルリと枯れ葉が一枚舞った気がした。
付けられた傷を触ると地味に痛くて、手っ取り早く治すには消毒が1番だと怒っていたことが馬鹿らしくなり帰路につこうと歩き出す。昔、怪我をしたとき唾を付けて治ると竜に豪語して、結局少し化膿してしまったときのたまお母さんの表情は未だにトラウマになっていた。



家に入るの気まずいなーと思っていたら門のところで一人タバコを吹かしてるカンナがいた。

「…………ただいま」
「あらお帰り花坊。家出じゃなかったの」
「ちっげーよ!散歩だ散歩!!」

ふん!と声を張り上げれば、そうかい、と馬鹿にしたように鼻で笑われた。
憤慨しそうだったが、自分自身に言い効かす、相手は女、相手は女。
仕方なしに、今日の八つ当たりは未だに部屋に居座っているだろうホロホロに向けることにした。

「坊っちゃん、どうしたんですその怪我は」

出先で掃除をしていた竜に話し掛けられ一瞬にして不愉快な出来事を思い出して思い切り態度に出した。

「聞いてくれよ竜!わっけワカンネー女がさ……」

そこまで言って不意に思い出した。
竜も父ちゃんも、思い出話でいろいろ言っていた。
たとえばパッチ族はビンボーだったとか。

「竜、オイラちょっと出て来る!」
「坊ちゃん、今日は黽坊の歓迎会ですよ!」
「わーってるって、その前には戻るし!!」

今まで来た道を逆に走る。
便所サンダルでも走れないことはないが脱ぎたい気持ちでいっぱいだったけれども、その時間さえもが煩わしい。

一通り見て回り、息が切れて肩で呼吸をしていた。額から汗が一筋落ちてそれを拭う。

(……いねーじゃん)
(そりゃそうだよな)

帰るか、と自身の杞憂に呆れ返ると、耳にぱちぱちと火が燃える音が届いた。
暗くてよく見えなかった川辺に明かりが灯って少し見やすくなっている。

(………って!)

「おまえ何してんのっ!!!?」

よく見たら積んだ石の上に座った少女の前にはアメリカンインディアン特有のテントが張られていた。

「見て分かんないの?弱い上に頭まで弱いなんて救いようがないわね」
「だーーっから、オイラは弱くねぇっつの!!」

不意を突かれただけだと言っても油断していたのは事実でどちらかと言えば言い負けはしている。

「おまえ野宿でもする気かよ」
「野営よ野営」
「変わりねーじゃん」

アンナの目に花の手の平が映った。
指先を伝って彼を見上げるとぶっきらぼうに手を延ばしてくる。

「…………何よ」
「こんなとこに女一人残して行けっかよ」

少しびっくりして彼を見つめると「勘違いすんなよっ!家広いから変な意味なんかないからな!」と叫ばれた。

「……………変な奴」

くす、と笑いながらアンナは花の手を取った。

「おまえにだけは言われたくねーよ」

そう返事をした花の顔はアンナの点けた火で赤く照らされていた。
花が足でその火を消すとその表情は見えなくなった。
うちにおいでよベイビー
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