いつだったか、科学雑誌で見かけた音楽で子供を胎児のときから育てる、っていう、いわゆる胎教ってやつを「アンナがやってたから、自然と今まで興味はそんなになかったクラシック音楽まで趣味として聞くようになったんよー」とのほほんと惚れ気を見せつけやがった奴の顔を思い出して、久々に電話をかけてみた。
でも、相手が相手なだけに家にいる可能性は限りなく低い。
だから携帯にかけたのだけれども、いくら国際対応でも電波の届く地帯にいるかもわからない。
目にかかった髪を邪魔に思い、前髪をかきあげ握ったまま落ちてこないようにした。
10回目のコール音のあと、留守電用の機械音で女の声が聞こえた。
やっぱりな、と思ったが、舌打ちをして、その声を最後まで聞く前にぶちぎった。
モーツァルトの何とかって曲を植物に聞かせて育てると良い、なんて話があったから何つー曲か知りたかったのに……
なんて、自分に言い聞かせてしまい、パシ、と瞼を手の平で覆った。
そんなもん、インターネットで調べれば一発だと知っている。
なんだかんだで話す理由を作ってる、って分かってるから嫌だ。
理解したくないのに理解してしまっている自分が嫌だ。
相手が相手だっつーのに。
「………」
もう一度、何を思ったか電話をかけてみた。
発信中、の文字はいつまでもそのまま。
なのに、なんだかその時間さえもが愛しい、なんて。
そんな風に思った自分に寒さに慣れた身体でさえ寒気がした。
はぁ、とため息ひとつ、携帯片手にもつ手を額にぶつけた。
「………病んでんな〜、俺も。こんな奴が好きなんて」
ブチ、と発信を止めた。
仕方なしにパソコンを起動させて調べてみることにした。
「…………ピアノソナタ第13番変ロ長調K.333~第………長い、知るか」
『病んでんな〜俺も。こんな奴が好きなんて』
意味の分からない留守電に戸惑いは隠せない。
どういう意味かは分からない。けれどもし、そういう意味だったら、なんて考えると頬が緩んでしまう。
留守電を珍しく削除せずに、ちゃんと聞き取っているのに何度も再生させた。
D.C.愛の告白
「オイラも、」
囁いた言葉が本人に伝わる術はない。
自己満足に過ぎないだろうけれど、でも。
(君が望むなら何度でも)
ずっとその言葉を聴き続けるよ。
2009.6/4(ホロヨday)
互いの想いに気付かないよなホロ葉
うっかり録音されていた、ピーッという音の後だったらしい
(ダメだ、スランプ……)