「葉」
いつもならほぼ単なる飾りとして使われているヘッドフォン。
今日は珍しく本当に聞いているらしい。
そんな葉にハオは声をかけた。
「何聴いてるの?」
肩に手を置いても何の反応もない。
眉を寄せて、ハオは葉を振り向かせて向かい合った。
文句のひとつでも言おうと思ったのに、顔を見て、やめた。
強く押さえていた手を離した。
葉の目が腫れていた。
嫌な予感がする。
何もせずに帰ろうとしたハオにやっと葉が話し掛けた。
「ハオ。ちょっとこっち来い」
ちょいちょい、と指を動かし近寄るように指示する。
しゃがみ込んだハオの頭に今までしていたヘッドフォンを被せた。
ほんのりと残った葉の体温が変に気持ち悪かった。
葉がレコーダーの再生ボタンを押した。
単調な音楽とは裏腹に、ストーリー性を伴った歌詞は展開を見せる。
短調な曲にお似合いな悲しい恋の話だった。
未練がましい恋人達が自分の道を歩くために別れた、要はそういうことだ。
“愛し愛され、お互いの存在を認め合い、自分が生きる意味を知った。
君の邪魔は出来ない。
だから、別れよう。
二人は悲しみに包まれながら別れたけれども、空には青空が広がっていた。”
見計らったように葉が停止ボタンを押した。
葉の考えてることなんて分かりきっている。
「………終わりに、しよう」
葉がハオからヘッドフォンを外しながら言った言葉、嘘だと思いたかった。
「オイラたちは、互いに相反する目標を持っていて………オイラは、仲間を裏切れないんよ」
「……………知ってるよ」
ハオがそう呟くと、これが最後だと葉が唇を寄せた。
ほんの一瞬触れ、葉は立ち上がり後ろを向いた。
「葉………ありがとう、愛してくれて」
立ち止まった葉が肩を震わせていた。
コクン、と首肯すると、逃げるようにいなくなってしまった。
ハオの頬を伝うものがあった。
空を見上げると、先ほどからの曇り空からぽつぽつと雨が降り出した。
( あの曲で葉は別れを決めたんだろうけど、その終わりはこんな結末じゃなかった )
( あの曲と僕らは違うんだ )
だから、お願い
サヨナラは言わないで
そう言えなかったのは、他でもない自分だった
昔のもの発見&大幅書き直しシリーズ
某アーティストのシングルのCP曲モチーフらしいです