小学校のお受験は何気に大変だ。
懐かしい思い出と共に問題を思い出しながらまん太はパソコン画面越しに親友の息子と対面している。

「花くん、僕が言ってた課題はちゃんとやったかな?」
『オイラ信用ないな〜、やったって、まん太おじさんってば』
「じゃあ建国記念の日」
『………2月11日!』
「正解……と言いたいけど、花くん、カメラの死角に卓上カレンダーあるよね」
『げげげっ!バレた!!千里眼!!?』
「手と目線が動いてたよ」

ぷす、と笑いを漏らすと花はぶー、と頬を膨らませ唇は尖らせた。明らかに不満顔である。

『そんな国民の祝日とか覚えなきゃダメなわけ〜?』

うげぇぇ、と文句を零しながら潰れた花にまん太は「ダメだね」と追い撃ちをかけた。

『わけわかんねーよ、絶対竜とか絶対知らねーぜ祝日』
「……いや…でもアンナさんに花くんを意地でも合格させろって言われてるから、覚えてもらうしかないっていうかね」

否定してもらえないところが竜の不憫さを表している。

「祝日じゃないけど、学校側が好きな日だってあるしね、あと名前が変わってたり日にちが変わったり不定期だったり、ホントにめんどくさいと思うけど、さあ、覚えるよ」
『うぇぇぇぇ〜』

ゲッソリとうなだれる花はまん太の記憶にいる親友にそっくりだ、たしかあまり対面していないだろうに面白い。

「あ、今日もだよ、その学校側が好きな日」
『へー……』
「5月2回目の日曜日」
『……カレンダーに書いてない。ギブ。』
「ははは、認めちゃったね。母の日、だよ。お母さん、いつもありがとうってね」

一瞬だけきょとん、とした花が『へえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜』と感嘆の声を発するとまん太は「長っ!」と突っ込みの声をあげた。





まん太おじさんから再度の課題を喰らった花はぷすぷすと脳みそを沸騰させる勢いで国民の祝日を日付、名称ともに擦り付けていた。
パソコンは既に電源を切っており、遊び相手のルドセブ兄ちゃんとセイラーム姉ちゃんが学校から帰宅するまでにはまだ時間がある。

(お母さんいつもありがとう、か……)

下唇を出して思い返すのはまん太おじさんの気楽に放った言葉だけ。
2階の自室から階段を下りかけ、1階の様子を探った。今日もお客さんなどいない傾いた経営絶好調だ。

中居花組がぶつくさぼやきながら掃除中で、喜ばすには普段散らかし放題で怒られることが多い花としては思い付いた掃除が1番だと思ったがどうやらそれは出来なさそうである。たまお母ちゃんの喜ぶことが全く検討がつかない。

「母の日……幼稚園じゃカーネーションとか言ってたか!」

ぴょん、と階段から飛び降りた花はその足で玄関まで走った。
それに気付いた花組が「花坊どこ行くの」と話し掛けたが、猪突猛進型の花の耳を華麗に右から左へ通り抜けてしまっている。

民宿炎時代から周辺に住んでいた人たちに聞いた話よりか、多少なりとも活性化した町並みに寂れた花屋があった、目指すはそこだ。

たどり着いた花は息を切らし、肩で呼吸をしながらヨボヨボのお婆さん店長の死角から商品をざっと見ると、予想外の値段(一本250円)に「げっ!」と表情を青ざめさせ、愛着してるオレンジつなぎのポケットというポケットをひっくり返す。
ひゅるるるり、と初夏だということを忘れるくらいの木枯らしが花の背後を通り過ぎた。

(72円……)

がっかりと肩を落とした花は店主のお婆さんに気付かれることもなく、行きの勢いはどこへやら、帰路を辿る、トボトボとした歩みの音が聞こえてきそうである。
悔しげに握り締めている72円が熱を帯びてきた。
土手に差し掛かると飛び出したころはまだ明るかった空も赤みを増している。何処か遠くからか、夕焼けこやけ日が暮れてのメロディーが流れてきていた。
カラスといっしょに帰りましょ、とメロディーが歌い切る直前に花の後ろからクラクションが鳴って、振り返ったら竜がトラックから手を出して振っている。助手席には母ちゃんがいた。

「花!なんでこんなところにいるの!!勉強は!?」
「まあまあたまおかみ!坊はもうまん太との勉強を終えた時間でしょう」

たまお母ちゃんが軽トラから降りてすぐに竜はエンジンを切る。
口を真一文字に閉じたまま渋い顔をしていた花を見た二人は顔を見合わせて首を傾げた。

「坊ちゃん、どうかしました?」

竜が腰を下ろし、目線の高さを合わせる。たまおもそれに倣った。

「………まん太おじさんに、今日母の日だって聞いたんだけどオイラ、母ちゃんが喜ぶことがさっぱりわかんなか、た」

プルプルと花の眉間が揺れている。
扱いにくいことこの上ない少年の気持ちの持っていきように、再度目を合わせた二人がパチクリと目を見開いたのを確認して思わず出た笑みを堪えた。

「アタシの喜ぶ?」

こくん、と花が頷く。

「………じゃあ、すごーく難しいお使い、頼めるかしら?」

カッ、と今までの落ち込みを忘れたように花の目が輝いた。

「それしたら、母ちゃんカーネーションもらうより嬉しい!?」
「もちろんよ」
「ヤッター!オイラ頑張ってくるよ!!」

たまお母ちゃんに思い切り抱き着いた花の手からは金属臭さが滲み出ている。そんな息子を愛おしく抱きしめたたまおの頬が緩むのを見た竜が微笑ましそうに笑んでいた。


愛が集まってくる

「アメリカまで行って、人、連れて来て欲しいの」
「おっけー任せ……ん?…アメリカ?」


2011.母の日にあわせて
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