「…あっ、あの、よろしければ貰って下さい!!」
学校に行ってすぐ、靴をはきかえていたら、真っ赤にさせた顔を下に向けたまま両手で可愛い包装紙に包まれたブツを少女が差し出した。
もちろん、貰えるものは貰えるだけ貰う。
それを受け取って、顔を上げた少女に最高の笑顔を見せてお礼を言うと、赤くなって逃げるように去って行った。
上履きを簀の子に落としたら彼女が走って行った方向からキャー、と黄色い声がした。
たかが献上品くらいでよくああも感情動かされるよね
「罪な男め」
「うらやましいだろ」
「別にぃ。オイラにはアンナがいるし」
サラリと惚気を見せる弟には悪いが毎度殺意が沸くよ
こっちが恥ずかしくなること言っちゃって
教室につくとまあ案の定と言うか、ほら、僕カッコイイし?
机が洪水状態になってた。
双子兄弟ってことで目立つと僕に劣るかっこよさでも葉にも被害は及んでる。
甘いものは嫌いじゃないし、予備に持って来た袋にとりあえずチョコを詰め込んだ。
すると頭にズシッと人の重みを感じた。
「なんなわけ、おまえ等兄弟」
「モっテモテ」
「うわウゼ」
「バカホロ、邪魔」
「何ホロっ!?」
チラリとホロホロの机を見てみたが、平素と変わりなさすぎる。
女子間ではよくある“ずっと良い友達”でいようね感たっぷりな奴だとは僕もコイツに対して思う評価だが、ここまで顕著なのも凄いと思う。
そして一日が終わろうとしても、ホロホロの戦歴は大した展開は見せようともしなかった。
ぶつぶつ呪いの言葉をはくホロホロに、カバンから箱を取り出して角でまだ軽目に殴ってやった。
「いってーな」
「これ、おすそ分けしてやるよ」
「……いらねーよ」
うわ、強情
可愛くない
「貰っとけって」
「おまえ……それを渡した女子の気持ちも考えてやれよ」
はぁ、と息を吐き出したホロホロに見られてない隙にカバンに滑り込ませてやった。
帰りのHRで葉がニヤニヤしながら回し手紙を投げて来た。
《さっきホロホロにやってたのおまえが買って来たやつじゃねーか》
…………待て
ちょっと待て
なんで知ってるんだ葉
手紙を見たあと葉に目を合わせるとにたー、と笑っていた。
かあぁ、と顔が赤くなったことが自分でも分かる。
今年は逆チョコ!なんて騒いでたから特に買いやすかったのも手伝って大胆な行動に出た自分が恥ずかしくなった。
HRが終わると葉は僕のとこに来て机に座って「ほーも」と呟いた。
「なんか言ったかい?」
「さぴえーんす」
教室から出てって部室へ向かうホロホロに葉が声をかけ「また明日な」と手を振った。
「ホロホロは、オイラの大事な友達だ」
「………分かってるよ」
「傷とか付けたら、大事な兄ちゃんでも容赦しねーからな」
「………ねぇ、大事な弟よ」
「なんよ」
「アンナ帰りそう」
「っ!? マジか」
そう言って葉は慌ただしく彼女を追い掛けて行ってしまった。
早々に一人になった教室に葉とは反対に近付いてくるドタバタした足音が近づく。
「ハオーーーっ!! 俺のカバンに勝手に入れたろっ」
差出人無記名のチョコ
いつもなら誰からだなんてきっと気にもならない
けど
「ちゃんと相手の子の気持ち、考えろっての!!」
逆の立場になってみると、余計無記名にしたままの理由がわからない。
(名乗って、みようかな)
happy valentine !
君のその優しさに惹かれました
(大好きだ、)
今年は土曜が14日だから遅チョコってことで★と油断したらかなり乗り遅れた、けど折角なのでup