葉のとこに泊まることにした俺は、葉の鬼嫁にこき使われていた。
やれ、食器を並べろ、片付けろ………俺にはそう言うくせにピリカには何にも言わないってぜったい可笑しいだろっ!?

と、文句を言おうもんなら、また鬼嫁はすっげー怖い顔で睨むんだよな。
そんでもって、
『か弱い女の子に何させる気?』
だからな。
いったいこの家のどこにか弱い女の子が………!
あ、一人いたか。


「ホロホロさん、ありがとうございます」
「いやー」


中居さんのような恰好で皿洗いをしているたまおちゃんだけが、おそらく唯一の“か弱い女の子”だと思う。
気もきくし。
かわいいし。

持ってきた食器をすべてシンクに置き、ちょっとしたタワーと化した食器を上から解体していく。


「たまおー、風呂入っていいんかー?」
「しょ、少々お待ち下さい、葉様! すみません、ホロホロさん、少し外しますね」


へこっ、と頭を下げてたまおちゃんは大浴場の準備をしに台所から出て行った。

とりあえず、食器を水につけようと蛇口を捻り、汚れを落とす。





  カサ……………



あまり聞き覚えのない音に違和感を覚えた。





   カサカサ……………



「……なんだぁ?」



眉を潜めて、音源を捜すために蛇口をしめた。

音がした方向には何もないが、その下に虫っぽいのがいる。

鈴虫か?


とりあえず、俺は鈴虫が鳴くのを待つことにした。
じっ、と見つめていると奴も動かない。



鳴かぬなら 鳴くまで待とう 鈴虫くん



なんちゃって。

じーっ、としてたら人間版コロポックル、もといまん太がトイレから戻ってくる途中、台所でうずくまる俺に近付いて話し掛けてきた。


「何やってるの、ホロホロくん」
「虫の観察」
「虫……………って!!」


まん太は白目をむいて、口をあんぐりと大きく開けて逃げるように去っていった。 いや、実際逃げたんだと思う。


風呂まだかー?と廊下をうろうろしていた葉が面白そうに近付いて来た。


「ホロホロー、何見て、」


答える前に、それ以上近付くのをやめた葉はUターンをして「殺虫剤どこだったっけな〜」とうろうろし始めた。

なんて奴だ、殺す気か


今度は蓮がニヤニヤしながら近付き、俺の首を腕置きにしてしゃがんだ。


「貴様、こいつに目をつけたのか。 うん、なかなかだ。 良い案配に育ってる。 さぞかし美味い唐揚げになるだろうな」
「え、こいつ食えんのか」
「ふん……中国四千年の歴史、足があって食えないのは机くらいなものなのだ!」


なんつー意味の分からない自慢だ……!


廊下から、台所に戻ってくる足音がパタパタと響いた。


「あ、ホロホロさんに蓮さん、お風呂ができましたよ」
「おぉ」
「? 何かいるんです、か」


覗き込んだたまおちゃんの表情が固まり、履いていたスリッパを脱ぎ、握りしめ、物凄い勢いで鈴虫くんを潰した。



「おい、貴様……! よくも貴重な食材を!」
「あんなの食べるなんて頭どうかしてます!!!!」



刃物を出す蓮に真っ向から立ち向かうたまおちゃん。
うん、急に見る目が変わっちまったな。

やっぱこの家か弱い女の子っていないわ。






未知との遭遇


「あれ、たまお、もう退治したんか?」
「は、はい葉様!」

殺虫スプレーを手にしゃかしゃか振り回しながらやってきた葉がそっか、と笑った。

「食材を無駄にするとは良い度胸だな、葉」
「……いや、あれを食おうと思う奴の方が度胸あると思うぞ」

蓮の言葉を全否定した葉に尋ねてみた。

「てか、何、あの虫」
「え、何ってゴキb」
バキャアッと葉の頬に拳が飛んだ。

「その名を口にしないで下さいっ!!!!!」

半泣き状態でたまおちゃんが訴え、床に沈んだ葉が「おぉ……」と生返事をして、我にかえったたまおちゃんはまた「キャー! 私、葉様になんてことを………!!」と余計涙が出ていた。



………見た目からは予想がつかない分、この娘が一番、この家で怖いかもしれない。


















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寒い地域には奴はいないそうです。
中国では奴をグルメに扱うそうです。
世界で1、2を争う位嫌いな生物をあえてネタにしてみました。

なんだかホロ贔屓だな最近

初めて奴と遭遇してもホロホロは楽しんで見ているか、「ぎゃーっ!」と叫ぶかどっちかな、と思いながら敢えて前者で。後者は後者で可愛いと思いますが。

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