目を閉じると、暗くなるはずなのに、一瞬赤くなった。
そう、それが生きてる証。
血液が自分の中を巡っている。
大きな血管から、瞼の裏の毛細血管まで隅々と。

以前、ゴーレムとの戦いで傷を負った腹部を触ってみたが、傷は残っていない。 普通にしていれば、少なくともきっと痕が遺ったはずだろうに。


皆でがやがやとした食事を取ったあと、騒ぐ面々、主に蓮、ホロホロ、チョコラブの三人を遠巻きにニコニコと見詰めるメイデンに葉はお茶を差し出した。


「ありがとうございます」


そう言って、メイデンは受け取った湯飲みを二回時計周りに回して、少しずつ冷ましながら、2、3回ほど飲んだ。

どこでそんな他所の国の礼儀作法を習ったのかが疑問である。


「な、聞いて良いか?」
「私に答えられることなら」


婉曲な許可を貰って、葉は何から話すか迷いながらメイデンの隣に腰を落とした。


「……この前、自分が怪我を負ってまともなファイトが出来なかったんよ」


今でもあの疼く痛みを思い出す。 熱い、のに身体がどんどん冷えていく感覚。


「だから、阿弥陀丸と自己治癒を試してみた」


「できな、かった」


ハオから向けられた視線が生々しく脳にこびりついている。

( チクショウ、オイラに、何が足りなかったんだ )

無意識ににぎりしめた拳が力の込めすぎで震えていた、その手をメイデンがそっと彼女の小さな手で包んだ。


「ヨウ・アサクラ、それは初めて試した時の話でしょう? 一日二日で出来るような技ではありませんのよ」
「分かってる、分かってるけどオイラ……っ」


出来なかったことが悔しいのではない。 頑張れば、努力を惜しまなければ、何らかの成功は掴めるはず。

だけど今は、あのハオから向けられた視線がやけに胸を締め付ける。



呆れ、失望、嘲笑、所詮、お前はその程度かという、あの瞳



( なんなん、よ、あの瞳の、理由 )



「……あなたは、」



メイデンが静かに話し始めた。


「治癒をするとき、何を思い浮かべましたか?」
「……人間の身体を構築する、血液、細胞、組織…」
「ええ、もちろん、それは大切です。 ですが、ヨウ・アサクラ、貴方は最も大切なことを忘れています」

「大、切………?」


下がっていた視線を上げてメイデンの瞳と合わせると、にこり、と笑われた。


「“生きたい”と願う心です」


何かが、葉の胸のつっかえをストン、と落とした。


「自分自身を回復させるのなら、“生きたい”と願い、それが他の人なら“生かせたい”と思う心です」


メイデンがそっ、と自分の手の平を胸に当てた。


「まん太さんか竜さんからお聞きになりませんでしたか? 私が蓮さんを甦らせる際、『眠り姫』のお話をしたことを」
「……聞いた、な」
「あのお話の王子様は、オーロラ姫を見て、生かせたい、一緒に生きていきたいと思ったのですよ」


残ったお茶をすべて啜り、口をつけたところを親指で拭い、また時計周りに二度回して、メイデンは ごちそうさまでした と葉に湯飲みを渡した。



「望まぬ生に、意味などありません。 一度しかない人生が終わりかけたとき、それを脱するということは、望まなければ出来る芸当ではないのです」



ああ、

( あの時、自分は )


生を望んでいたのだろうか?
傷を治すことしか、頭になかった
治ったら何をすべきかで頭がいっぱいになって、“生きたい”だなんて思っただろうか



「………サンキュー、メイデン。 なんかスッキリできたんよ」
「お礼には及びませんわ」



先程の湯飲みをシンクへと持って行こうと葉は立ち上がった。
さっきよりも少し晴々とした表情がそこにはあった。


「疑念は解決出来たのかしら?」



台所に繋がる扉の陰でアンナは待ち構えていたらしく、腕組みをして壁に寄り掛かっていた。



「おぉ、あ、でも新たな疑問もできた、な」


アンナが目を吊り上げたのを見て葉は「いや、なんでもないんよ」と焦ったように首と手を振った。
ハッキリしない葉になんだか腹が立ち、彼の頬をつまんで横に引っ張った。


「いひゃいいひゃいっ」
「じゃあ、その疑問も口に出しちゃいなさいっ」


限界まで引っ張り、それ以上伸びなくなった頬はブチン、と元の位置に戻った。
ヒリヒリとした痛みに頬を摩る葉の目は微妙に涙が溜まっている。



「………あいつ、にも他人を“生かせたい”って気持ちがあったから、超占事略決に、そんな術が残ってたんかな、ってさ………」



その発言を聞いたアンナは目を丸め、ふー、と息をついた。


認めたくはないのだけれど、



「あんたでしょ、いつも言ってんのは」


うえ? と目を上げた葉の目に どろん と尤もらしい効果音と共に阿弥陀丸が現れた。


『霊が見える人間に、悪い奴はいないのでござろう?』
「阿弥陀丸………、だな」


にこ、と納得した葉とは対象的にアンナは阿弥陀丸にキレかかっていた。
1080で阿弥陀丸に縛り上げ、「このイイトコ取り侍めがっ!」と足蹴にしている。

湯飲みをたまおに渡した葉は阿弥陀丸救済に取り掛かり失敗し、同じくアンナの足技を喰らった。




青き薔薇が咲くことを祈る
大丈夫、その気持ち、
 だれもが皆、持っている、だから、思い出してくれる






















宴会中の話
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -