時は幕末明け、明治の世になったものの、まだまだ人々の暮らしはなんら変わりない。そう思うのは裕福な子供だけ。
教育が当たり前。
友人と話すのも当たり前。
幸せだとは気付かずに、ただただ毎日に追われてく。

しかし目の前のこの男、それ以上に宿題というものに追われていた。


「…蓮、オレもうだめだ…」
「ふざけるな、そもそも計画的にやらぬのが悪い。」

蓮はホロホロに睨みを利かせ、窓の外に目をやった。
視界に映ったのは、この地区の名所・老舗の遊郭
いまだに聳え立つその建物は、男の目には天国で、女の目には憧れで遊女にとっては牢獄そのものか。
しかしその風景は物心付いた頃には慣れ親しんでいて、もうすぐこの地を離れるこの身には、掛け替えのない風景のひとつにすぎぬ。

五時を告げる鐘が、すぐ傍から聞こえてくる。
それも其の筈、この場所は、歴史ある御寺があり、次の住職は蓮だと決まり、彼の為にか幾許か騒がしい模様。

「早く終わらせてしまわんか。」
「別にいいじゃねぇか。オレだってお前と離れるのは寂しいんだぜ?」
「…女々しい奴め…」
「お褒めの言葉とうけとっとくぜ。」

しかし、自分の事をそう思う彼を、けして嫌だとは感じない。
時間に気付いた子供たちは、それぞれ帰路へと走ってく。
年少は年長に送られて、気を付けて帰るんだぞーと、妙に気の抜けた声が空に響き、ホロホロの握る鉛筆の芯が音を発てて折れた。

少年少女の淡い恋絵巻
羨ましく思う
そんな年頃


淡く儚き初恋絵巻
書き上げたく存じます。
 
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