ダダダダダバババ、といつも聞こえてくる渓谷を削る滝の強い水しぶきに混じって、その流れを妨害するものがそれに当たる音が聞こえた。
探していた人物が、きっとそこにいるのだろう、と思えば、どんぴしゃり。
パァ、と顔を輝かせて気付かれていないのを良いことに木の陰からピョン、と飛び出した。

精神統一の鍛練中なのだろう、やっぱりこちらには気付いていない。


ダダダダダバババ………と滝打つ凄い量の水の威力にゴク、と唾を飲んだ。

しかし意を決して足を出して水溜まりの中に腰を下ろし、滝に挑んだ。




「あいだだだだだだだだだだっ!!!」
「何やってるんだニクロムーーっ!!」




精神統一による集中力は弟の心からの叫び声によって途絶えた。



クロムは弟を急いで軽々と担ぎ、滝の裏側に窪んだ窟に降ろして避難させ、自分の鍛練も中断した。

げふっ、ごふっ、とニクロムはむせこんだ。
鼻から水を吸い込んだ、喉が痛い。



「何やってんだ、ニクロム!」
「に、兄さんに倣って修行を」
「子供には子供にしか出来ない修行、今やったら危ない修行があるんだから真似はやめなさいっ!」
「でも僕は兄さんと一緒が良いんだ!」



鼻の奥からジンジンと痛んだが、握りこぶしを作ってそう叫んだ。
クロムはそう力む弟にどうも太刀打ち出来ない自分を重々認識していたので、困ったな、と濡れた髪を掴んで絞りながら思った。嬉しく思ってないと言ったら大嘘になる。



「……ニクロム、だいたい学校の勉強はどうした」
「そんなの終わらせたよ、ついでに予習済み」



Vサインを誇らしげに掲げるニクロムを見てクロムは優しく笑った。



「……まったく、仕方ないな」



くしゃり、とニクロムの頭を撫でた。



「俺の特訓は厳しいぞ」
「……っ! してくれるのっ!?」
「学業が疎かになるようなら即座にやめるからな」
「ありがとう、兄さん!」



どふ、と兄の胸に飛び込むつもりが、腹筋が割れた腹に当たった。
はは、と笑いクロムは腰を低くしてニクロムを抱き上げた。



「よーし、じゃ、とりあえず家帰るか」



滝の水が強すぎる太陽の光を受けて透けていた。
きらきらきらきらと光が揺らめいていた。

そんな夏の日
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