私は悩んでいた、傍目には分からなかっただろうけれども、夫とまだ幼い我が子に見られないところでひそかに泣いていた。
時折慰めるように腹の中の赤子が動き、そこで膨らんだ腹を摩ると少しの間流した涙が止まるのだ。

夫は優しい仮面をつけた、どこまでも優しい悪魔だ。

気付いていないと、あの人は思っているのでしょうけれど、私だって彼を愛してるから、気付くのよ。
それとも女の勘ってヤツかしら。


ゴーレムの研究に掲げる彼の情熱は眩しく感じている。
熱いその姿勢に惹かれた。

私たち、忘れ去られた民の再興を託せる研究だったもの。

だけど、彼は気付いてしまった。

普通の人間なら良かった。
代替処置を考え出せるから。

だけど彼が霊能者、所謂シャーマンであることを私は誰よりよく知っている。

だから、彼は気付いてしまった。

ゴーレムを動かすための燃料が何なのかを。

そして一族再興の使命を担う彼は、もはや自己中心的な男になっていた。


傍目には幼い息子ともよく遊ぶ良い家族でしょうね。


まさかその影であの人が殺しをやってるなんて想像もつかないでしょう。


嗚呼、私はこの苦悩を誰かに相談することも出来やしない。



二人目の子供を出産すると、彼はとても喜んでくれた。

「君に似て美人になるよ」

なんてクサイ台詞が嬉しかった。
だけど、新しい命が生まれてすぐに何処からか新しい魂を仕入れて来る彼の姿が見えた日には涙さえ出てこなかった。


悶々と悩む日が続いていたある日、徹夜で研究に勤しむ彼にコーヒーを持って行こうとしたら、ダンッ、と机を叩く音がした。
驚いてしまい、持って来た盆の上でコーヒーが零れてしまった。


「なぜだ! これで良い筈なのに……どうして動かないっ!?」


わなわなと、自身の手を見つめるその時のカメルには今までの罪を購う気があるように見えた。
だけど、私はもうあれ以上、手を赤く染め上げるあの人を見たくなかった。

動かない理由、実は簡単なのよ
操縦者としての儀式を、していないじゃない

自分からする人はいないでしょう

貴方も知らないでしょう、知ってても嫌でしょう?



子供たちは気掛かりだけど、私は弱い、これ以上あの人が汚れていく姿など見たくなかった。

次の日、彼の元にまだ小さな子供二人と“さよなら”と書いた書き置きを残して私は二度と家へ帰らなかった。



研究者として育った彼はきっとシャーマンとして育った私と違い、オーバーソウル、なんて知らないのよね。






私がいなくなって、さらに研究に没頭した彼が喜ぶ顔、忘れないわ。


「おぉ……動いた…!」


まるで奇跡みたいな言い方。
でも、これで彼がこれ以上、他人を殺さなくて済むわ。

自己満足に過ぎないかもしれない。

だけどこれ以上何か出来るほど私は強い人間じゃなかったの。


まさかあの人も早々に死ぬとは思ってもみなかったけどね。

でも大丈夫、子供たちには私が、ゴーレムと化した私がいろいろ教えてあげるわ。




ラビの涙
唯一の誤算は、カメルに憑かれたセイラームが私の存在に感づいたこと



ゴーレムの中は胎児のころと同じ感覚だったからかもね



























ミュンツァーさんとこの奥様ネタ……名前不明なため勝手すぎる一人称
勝手に蒸発してゴーレムになったものの、パパのせいで不安定になった精神がママ見付けちゃったセイラーム
胎児の時くらいしかママと接してなかったから、ゴーレムの中は胎児と同じ状況のようだったから見付けやすかったんじゃないかな?みたいな
説明しないと解りづらいとは致命的……

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -