風が誘う、星空のもとへ
父が笑い 母が呼ぶ
いざ 共に行かん
我らが友をば 探す旅
鼻歌交じりに聞こえた歌詞を繋げるとそうなった。聞いたこともない歌だ。
ひやりとした洞窟の中で焚いていた薪が、パキン、と音をたてた。
「即興か?」
「ん、ああ、聞こえていたのか」
「おまえ、声に出てんだよ」
「……すまん、すまん」
「…………ったく」
クロムは恥ずかしそうに頭をかいた。悪態をついてはみたものの、シルバは彼の歌が嫌いではない。
「自然の音を聞くとなんかメロディラインが浮かぶのさ」
「はーー俺には分かんないわ」
「だろうな」
「どういう意味だ」
はは、と笑われてしまうと渋々口をすぼめたりはするも、反論は出来なくなる。
「例えばだシルバ、耳に手をあててみろ」
ジェスチャーも加えられたので言われた通りに両耳に手を被せた。
日本の東照宮の有名な“きかざる”状態だな、と思った。
「目をつぶり、全神経を耳に集中させる」
ずもおわ、と今まで聞こえなかった音が響いた。
「それが我らが生きている音だ」
「………ほぉ」
「全身に血液が巡り、回り、渡り、生きようとしている生物の音だ。すべての生物の根幹だ。大地だってその音を持っている」
「ふむ」
「そこでさらに指などを動かしてみろ、立派なリズムが誕生する」
「…………やっぱ分かんねーわ」
「残念だな」
わしゃ、と頭を撫でられ、「ガキ扱いすんな」とその手を払えば、「弟のようだな」と笑われた。
そんな懐かしい日の夢を見た。
目を開けると、そこは安っぽいアパートの明かりは点るはずのない切れた蛍光灯が暗闇の中、うっすら見える。
数回瞬きをすると目尻から耳の付け根にかけてゆっくりと伝うものがあった。
びっくりしてムクリと起き上がり、乱暴に目を拭った。
隣にいるカリムを起こさないようにしようと、静かにベランダに出た。
東京の空は自分達の故郷の空の美しさには到底敵わない。見える星が少ない。
クロムが無意識に歌詞に入れた星空は、よりによって彼が死んだときの空は格別に美しい、とかそんなものじゃなかった。
わしゃ、と長い髪の間に通ったごつい指からは優しさが伝わった。
そんな懐かしい感覚が、した。
しかし、それはクロムではない。
「………起きてたのかよ」
「最初からな」
撫でられる感覚が愛しいなんて嘘のようだが、しばらく流されるままにさせた。
幾度目かのそれが急に強い力に変わり、厚い胸板に顔を引き寄せられた。
「…………あいつを、引きずるな」
シルバがカリムから離れようとしたが、カリムはシルバを抱きしめるように腕を回していて、それは叶わなくなった。
「クロムの魂に対しても、それは決して良いことではない」
頭では分かっていることを言われると胸から鼻の奥にかけて息が詰まったように苦しんだ。
「………分か、てんだよ…っ」
カリムのシルバを抱きしめる力が強くなった。
遥か彼を偲ぶ歌
風が届く、友のもとから
父が雄叫び 母が泣く
いざ 共に唄わん
我らが友をば 偲ぶ歌
( 愛してるとは、伝えない )
( 伝えられ、ない )
見付からなかったので自己生産したカリシル………というよりはカリ→シル→クロ
シル受けって良くない?