想像していたよりも、息切れが激しかった。
ぜいぜい、と肩で息をしている自分が情けないと思う。

(この、くらいで、)

へこたれて堪るものか、と足を踏ん張らせたが、がくりと崩れてしまった。

床に手をついて息が整えるまで諦めることにして、頭に巻いていた赤いバンダナを前方に引き外してグシャと掴んだままにする。
手はまだ汗で湿っていた。

言い出したのは他でもない自分だったが、巫力が底に達する程の消耗がどれだけ苦しいものか、かなり久々に感じる。


はぁ、と溜め息と同時に目を閉じた。


瞼の裏で、うっかり気絶させてしまった葉の顔が浮かんだ。
なんだって、ああも足が出てしまうのか分からない。


「アンナ」


優しい声が耳に響く。


「アンナ」


後ろから抱かれ、肩をしめられた。
優しい圧力が心地いい。


「…何、葉」


ゴーレムにやられた傷は深かったが、日常生活に支障はないくらい回復している。
そのことに安心して胸のつかえが少し降りた。


「………大丈夫か?」


多分、目覚めてすぐに、近くにいたファウストから子細を聞いたのだろう。
ゴーレムに巫力を注いだことも、きっと葉には分かってる。

そして、巫力が尽きることによってどういう風になるか、とか
過去、その状況に立ったとき、何が起こったか、とか

肩を抱く葉の手に自分の手を重ねた。
冷たい。


「………当たり前でしょ、あたしは麻倉に嫁ぎに来る女よ」


びく、と葉の指が震えた。
その言葉さえも、こんなに葉を不安にさせてしまうようになって、多少、恥ずかしくてもストレートな言葉を選ぶしかなくなっていた。


「あたしは、葉の嫁になる女よ、こんな何でもないことでへこたれるようなヤワな女じゃあんたの相手なんかできないわよ」


葉の手を握る力が無意識に強くなった。


「……ん、」


葉の腕から逃れ、向き合う形になった。

下を向いた葉の頬の両側をペチン、と叩いた。


「ほら、あたしは大丈夫だから、もっと行くべきところがあるでしょ」
「ああ、竜から聞いた」


なんとも言えない表情をした葉の目を覗き込んでみると、へら、と困ったような笑顔を見せた。


「あたしは大丈夫。だからアンタは友達の心配、してやりなさい」
「ん」


ほら、と立ち上がり、葉の腕を引っ張って立たせた。
くるり、と後ろを向かせ背中を軽く押した。

つんのめるように歩き出した。


と、思ったら振り返り、またこちらへ寄って来て抱きしめてきた。



「サンキュな」
「ん」



肩に顔を埋め、抱きしめる葉の背に手を回した。
頭に手を当て押し付けられ、必然的に葉の肩に鼻が当たる。

耳に葉の唇が当たる。

頬骨をなぞられ、手で顎を持ち上げ、そのまま口付けを落とされた。


「じゃ、ちょっとチョコラブんとこ行ってくる」


唇を離したあと、パッ、と後ろを向いて葉は言った。
ちらりと見た耳が赤くなっている。




あたしが好きな人は、純粋で優しい
だから傷付くし、でも隠そうとする

それをあたしにだけ見せてくれる


ラブドワン
それは、お互いに、


















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チョコラブとミュンツァー兄妹決着直後の夫婦
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