出来ねえと思ってる奴がいたら、出来るもんも出来なくなっちまう

だってさ。

仕方ねえじゃん。

こればっかは。

例えるならオレはさ『羊の皮を被った狼』なワケだよ。

・・・男なら誰でもそうかもな。




SHEEP
〜legent of the love soldier〜



「・・・雲ひとつない空ですなあ・・・」


要は暑い。


「飛行機雲があったらまだ幸せだ、その次の日は曇りらしいからな。」

「ホロホロ物知りだなー。」

「バカの一つ覚えだろう。」

「うっせ」


しかし暑い。

故郷とは、いや、日本とは全然、比較にもなんねえ、とホロホロはぼやいていた。

はじめの内は、「うるさい奴」だと放っておかれていたが、暑いのは間違いのない事実だ。

分かっている事を何度も何度も聞かせられると、イライラしてしょうがない。



「いい加減に黙らんか、バカホロめが。」


蓮は半ば、トンガリが伸ばしながら不満を突きつけた。


「だってよー、蓮・・・」

「いいじゃねえか、蓮。」


今まで音楽を聴きながら、先頭で地図と戦っていた葉が口を挟んだ。

ホロホロにとってはなんとも言いがたい助け舟。

天使。女神。あ、男だった。


「煩いトコロがホロホロの良い所なんよ、な、ホロホロ。」


それを笑顔で言ってくる辺り、きっと、悪意はまったくない。

それが更にショックである。

漫画だったりしたら、「ゴ〜ン」とでもホロホロの後ろに出で居るところだ。

蓮は蓮で葉に「それは誉めているのか?」とちょっとした突っ込みをしていた。

いない、と思った竜を目で追うと、未だにまた捕まる車があると思っているのか、『ビッグ・親指』発動中だった。


4人がアメリカに落とされてからの旅はそれはそれはホロホロにとって苦しいものだった。


何がって、出会う人々との思い出。
なかなか見つからないパッチ村への手掛かり。
慣れない環境。

好きな人に好きだとばれないようにする事。

何故かって、今の関係を壊したくないって事もある。



本日の宿が決まった。

野宿なんかだと、何者かに襲われるのでは、と気が気じゃない。


何よりも心配だったのは「アイツ」。

何者かに襲われる・・・その何者か、がオレかもしれない可能性があったから。



室内なら、何か気を誤魔化せる物があるから、まだ安心だ。





テレビを点けると、やはり、安いモーテルに見合ったような、日本よりも画質が劣る、そんな映像しかない。




正直、ワケの分からん英語のテレビなど、見たくもないが、葉のシャワー音がオレのいる所まで響いて、興奮気味なんだ・・・・・・あっちの「オレ」が。



赤くなって、自分に落ち着きを取り戻そうと、必死に頭を振り回した。

傍から見たら只の変人となんら変わりない行動だ。


蓮と竜はそれぞれ外出していた事が救いだった。




「おーい、ホロー。風呂いいぞー」



あー、ちょっと、落ち着け、おれ。

アレは何の警戒もしていない羊だ、今なら食える、って食っちゃいけないでしょうが。



一人脳内漫才開催。



だめでしょ、麻倉さん。

一端の男の前でそんな風呂上りの肌蹴た格好しちゃー…って、コイツも男じゃーん。




「あっ!」




葉はテレビの画面に目を向けると、何の躊躇もなく、オレの隣に腰をかけた。


ちょっとー、本気でヤバいんですけど。

すっげー良い匂いするんすけど。




「この映画、コマーシャルで流れてたよなぁ!」


「・・・そうだったっけ?」




記憶にない。

というより、自分の場合CM中は誰かと話したりして、見ていない。




「そうそう、主人公の吹き替えをBobが初挑戦でやってて、すっげー見に行きたかったんよ。」




あのぉー、オレあんま芸能系は詳しくないんだけど、Bobって只の歌手じゃありませんでしたかー?



「そうっ!丁度この辺りが予告で流れてたんよ!!」







戦争で愛しい人を失うのが、とても恐ろしいと分かってくれないの?
それでも貴方は行ってしまうの?

私は君を幸せに出来る確信がない。
今は、君に顔向けする事が死ぬよりも恐ろしい。

だけど、




Keep on Loving YOU



君を愛し続けます。



「ってーと、コレ、戦争映画?」

葉の記憶の限りの訳を聞いてようやく理解できた。


「おう。戦時中の恋愛を描いた映画。」

「へー・・・」



なんだか、観ていて悲しくなった。



相手を愛しているのに、自分に素直にならず、仲間にさえ見捨てられゆく男の末路。


時は過ぎ、彼女は元の親友の手のうちに。


身を引いて、彼女が幸せなら、それが自分の幸せだと、身を引いた。


それは本当の幸せなのか。


ならば何故、ラストの男が彼女を訪ねて来て、それを追い返した女はあんなに悲しい表情を見せるのか。


捨てたのなら、二度と私の前に現れないで。


そんな事を言われてしまったら、いったい自分はどうなるか。

































「・・・・・・っん・・・!!」



もう、ダメだ。

眠っていた狼が目覚めた。





重ねるだけではなく、唇を舐め、・・・葉が呼吸欲しさに開いた唇の隙間は、まさに絶好の獲物。



 
「・・・・・・っ!って、わぁっっ!!」


正気を戻し、葉から離れる。

葉は驚きが大きかったらしく、まだ呼吸に苦しいのか口は半開きのままだった。



「・・・ごめ・・・」


頭に残るのは、一瞬だったのに、永遠だと感じた快感と後悔の念だけだ。




場に居づらくなってオレは外に出ようとした。

すると、入れ違いになるように、蓮が戻ってきた。



「なんだ、今から出るのか?」

「あぁ、ちょっと頭覚まして来る。」





モーテルの入り口に植えられた木に思いっきり拳を当てた。





木がバサッ、と音を出して揺れる。





このまま、葉の所に戻れるはずがない。

オレは居場所を自分から手放した。



あの映画のように。






「クソ・・・・・・」





でも、あの一瞬だけは、きっと、本当に忘れないと思う。



『・・・クル?』

「・・・すまねえ、コロロ、・・・慰めてくれてるところ悪いけど、ちょっと、一人にしてくれ。」




心優しい持ち霊さえもに見放される可能性が出て来るほどの浅ましい行為でした。













「ホロホロ!!お前ちょっと待てよ!!!」


「急に理由も言わずにどっか行くなんて、失礼にも程があるんよ!!」


げ。
今一番見たくて見たくない顔のお出ましだ。


「…なんだよ、何か用でもあるのか?」

「へ?」


いやー、と葉が少し戸惑った表情をして頭をかいた。



お願いだから、

 頼むから、


見捨てないで





嫌いにならないでくれ



葉の、開いた口が怖い。

次に訪れる言葉が怖い。

耳を塞ぎたい。




「・・・さっきの・・・本気なんか?」



オレはまた、ありありと先ほどの過ちを思い出し、恥ずかしくなって腕で口元を押さえ付けた。



「・・・ウソじゃないんよな?」



返事が出来ない。

ただ、街灯の下で、自分の頬が染まるのはなんとなく分かった。



「・・・・・・・・・」



葉の言葉が切れた



不安気に伏せがちに彼を見た。



いつもと、いや、いつも以上の笑顔


それがそこにあった。



「うぇへへっ・・・」



葉はオレに歩み寄って、そのまま柔らかく抱き締められた。




「…嬉し過ぎて、顔やべえからぜってぇ見んなよ。」




一瞬の内に通り過ぎていった言葉。

今のはつまり、そういう意味なのか?


数学出来ない頭をフル回転。



嘘じゃないかどうかなんてもう知ったこっちゃねえ





ひたすら強く抱き締める以外に今の感情は何も表現のしようがなかった。








飛行機雲がしばらく消えないのはその次の日が曇りだから





たった今、溜まっていた雲は消え去りました。


心の天気は超快晴。






「・・・帰ろうぜ、ホロ」

「・・・おう」



互いに妙に恥ずかしくなって、笑った葉の額に自分のそれを軽く中てた。




繋いだこの手が解けませんように



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