はじめての学校に、少しそわそわしているハオと共に学校へ向かうのは、正直欝陶しくて仕方なかった。 それでも我慢して付き合っていたが、アンナは遂にイラッと来たらしく、バスでわざと一人席に座ってしまった。
「うーわー、すっごいドキドキする」
「そーか」
学校に1番近いバス停に着いたときもアンナは一人でさっさと行ってしまった。 ちくしょう、逃げたな!と葉が心の中だけで舌打ちをしていると、周囲の学生がハオをチラ見していることに気がついた。 正確には葉と見較べていた。
「………ハオは、とりあえず職員室行けば良いんよ」
「どこそれ」
「…………案内すれば良いんだろー…」
無言の要求に応えてしまった自分が憎らしかった。 打って変わってハオは「ありがと」と極上の笑みを浮かべている。
職員室の扉を開けた葉は担任にハオを預け、ようやく教室に向かうことが出来た。
教室の中はすでに転校生の話題で持ち切りだ。 そこそこ仲の良いクラスメートが「麻倉! 今日転校生来るって!!」と情報を寄越して来た。
はは、と笑いアンナを見ると、不機嫌そうな顔をしている。
予鈴が鳴り、担任が朝礼をしに教室に入って来た。 今日は楽しみがある、と分かっていたので、クラスメートほぼ全員が即座に自分の席に座った。
「あー、今日は、みんなに新しい仲間を紹介する」
担任がそう言う脇で廊下側の1番前の生徒がどうにかして転校生を見ようと首を伸ばし、どんなん、どんなん?と口パクで伝える友人にこれまた口パクと身振り手振りで“髪長い”と伝えていた。
クラスの男子の中で“よっしゃ、女ぁっ”の空気が流れ、葉は吹き出してしまい、変な目で見て来た視線から逃れるように嘘くさい空咳をした。
「あー、入って」
ちょいちょい、と手招きされて入って来たハオを男子は舌打ち、女子は口角を上げ内心ガッツポーズで迎えた。
「えーと、よろしく。 麻倉ハオです」
へこりーん、と挨拶をしたハオの後ろで担任がチョークででかでかと“麻倉ハオ”と書いた。
「麻倉……ってお前と同じじゃん」
「…………だな」
クラスの目が葉に注がれ、言い訳めんどーだなぁ、と葉が内心思っているとハオは同じクラスだと今分かったようで、葉に向かって笑顔で手を振った。
恥ずかしくて、顔が赤くなった葉を他所に一部女子から小さな黄色い声が漏れた。
「あーじゃ、麻倉、麻倉の横の席に行け、麻倉のよしみで」
「せんせー、解りにくいです」
「あーW麻倉だもんな」
「麻倉兄弟か」
「そーいや似てる気がするな」
「つか似てね?」
「「偶然」」
なんよ、とだよ、が重なり、教室中に笑いが重なり、葉とハオを総称するあだ名が決定した。
そこそこカッコイイと言うこともあり、ハオの回りには特に女子が群がった。
次の授業は数学だったが、かばんに入ってなかったので、葉は隣のクラスにいるまん太のところまで行って借りることにした。 たまたま廊下にいたまん太は先程直したロッカーから目的のものを捜して葉に渡した。
「もー、間抜けなんだから葉君ってば」
「すまんすまん」
へへ、と教科書を手にした葉が詫びを入れるとまん太は思い出したように転校生の話題を振った。
ときだった。
「よーうー、教科書見してー」
ぬぼ、と葉の後ろから抱き着いて来たハオが肩に顎を置き休めた。
「質問攻めつかれたー」
「がんば」
「冷たーい」
ぶー、と不平を零すハオをしかと見たまん太は真っ青を越えて真っ白になり、顎が完全に外れていた。
「まあ、みんな僕に質問して応えるだけで嬉しそうにしてくれてうれしいんだけどー」
「どこの偽善者だ」
「………よよよよよ葉くん、転校生ってもしかして」
こくん、と葉が“残念ながら”と首を振ると、ハオはまん太の存在に気付いた。
「あ、葉の友達ー? よろしくね、僕麻倉ハオ」
君は?とハオが尋ねる前にまん太は「ギャーーーーーッ」と絶叫し、白い泡を噴き出しながらパタンと倒れた。
「うわああぁっ!! まん太ああぁぁぁっ!!!」
オロオロしたハオが、葉がしていたまん太の介抱を手伝いながら口にした。
「ね、ねぇ、友達増えたら自然と嬉しいから笑える………よねぇ、葉? 僕この子にも」
笑顔でいてほしいんだちょ、お前の過去知ってる奴には無理じゃね?