さわさわ、と風に木々が揺られていた。
「ねぇ、どこまで行くの?」
「もうちょっと奥まで」
くすくす、と嬉しそうな女の笑い声に彼女の手を引く男は見られていないのを確信して、猟奇的な瞳へと変貌していた。
ペロリ、と舌で唇を潤す。
ぱ、と女に振り返ると、そのまま引き寄せて深く、長い口付けをした。
女も女で慣れたようにそれに応える。
「好きよ、愛してる」
「僕もだよ」
「…ハオ…」
女が強く抱擁を求める。
男は口付けの位置をどんどん降下させていった。
口に、頬に、そして
「!……いっ」
首筋にかぶりついた。
「や、やめっ…」
女の声はだんだんと息も絶え絶えとなっていく。
声が、出ない。
血色と、生気を失って、その身体は崩れていった。
「君の血を欲するほどにね」
口周りにまで及んでいた女の血を親指で拭い、もう一度、ぺろりと舐めた。
「…しっかし、君の血、不味いね」
やっぱりな、と男は落胆した。
今時、純情な子なんてそりゃぁ少ないだろう、と。
食糧にケチをつける訳ではないが、それはやはり美味い方が良い。
「さーて…次の獲物探すかな」
男は闇に消えていった。
夜も遅く、街灯さえ点いていない。
暗い街灯の元で、新聞が風に煽られて舞っていた。
灯りがあればその記事が分かるだろうが、その時間に分かるはずはない。
そこには見出しにこうあった。
若い女性を狙った猟奇的殺人鬼
その正体が吸血鬼であるとは、まだ、一般に知る者はいない。