嫌でも気付く、気付かざるを得ない。

にゃーにゃーと甘える猫の鳴き声がやけに大きいのはその数に比例しているからに他ならない。そして飼い猫から野良猫まで老若男女、いや、雄雌問わず集まってくるのは理由が必ずある。
花は白目を剥いて阿弥陀丸のオーバーソウルを解いた。彼も彼で何も言わずともわかってくれている。家での修業がしづらいからとわざわざ人目を避けるように近場の竹林を選んだのも間違いだったらしい。人目はなくとも神様目がある。叔父目ともいう。ちくしょう、叔父さんめ。

いつもなら茶々入れに来たりもするが、猫の鳴き声とそこから茶々入れをしてくるタイミングがいつもより遅い、というか来ない。
それはそれでなんだか気味悪い、そう思った花は猫を頼りにハオを探すちっぽけな旅に出た。

紅い着物を身に纏った神様を見たことは、父ちゃんも母ちゃんも無いらしい。
神様(笑)の話をしたら、もともと締まりの無い顔した父ちゃんの眉がさらにふにゃ、と下がる様は(もう子供じゃないけど)子供心に不思議な違和感を感じていたのだ。

「、と」

いた。そう思った花が足を止めるも、ハオは地面に腰を下ろし目を伏せたままでいる。

「おじさん、風邪ひくよ」
「人間じゃあるまいし、ひきゃあしないよ」

律儀にどうも、とフツノミタマノツルギをズボンに差し込み、厭味ったらしく返した花は足元に擦り寄って来た猫を一匹持ち上げた。
随分と人なれした奴で腕の中で頭を撫でぐり回されても嬉しそうな顔をしている。もこもこした毛を通してもぬくい体温に少し幸せな気持ちになった。

にゃあ、と別な猫が鳴くと腕の中で大人しかった猫が反応して鳴き返した。
地面に放してやるとサッサとそちらへ向かってしまう。
なんとなく寂しい気持ちになったのをごまかそうと、花はハオの隣に腰掛けた。

「今、父ちゃんが家に帰ってきてる」
「葉か…うん、知ってる。神様だからね」

ほんの少し、違和感を感じた。

「父ちゃんは父ちゃんらしくないんだよ、オイラが修業つけてくれって頼んでもやってくれないし」
「あいつらしい」
「かと言って遊んでくれるわけじゃないし」
「まあ、あいつもそんな育ち方だったからな」

違和感が確信に変わっていく。
雰囲気が和らいでいる。その理由なんて定かじゃないんだけれど。

「ハオ叔父さんさ、会わないの?」
「叔父さんじゃない……会わない、ううん、うん、まあそんな感じ」
「なんで?」
「葉にはお前もアンナもいるし」

ちょうどよく風が吹いて、ハオの長い髪が靡いた。
寒くなる空気を察した猫が少しずつどこかへ去っていく、

「……なのにあいつの側は、」
「?」

きっと温かいところに。

瞳を閉じたハオを見て、花が瞬きをした瞬間にまた風が強くふいた。反射的に力を込めて瞼を閉ざす。
あけたときにはハオが消えていた。

「あ!逃げられた!!」

くっそー!と悔しがりながら飛び立ち上がる。

神様だからなのか読めた試しなど無いけれど、ハオの気配はないかときょろきょろ頭を動かして探す。
よく回りを見たら叔父さんどころか猫たちまでほとんどいなくなっていた。
先程抱き上げた猫ももういない。

なんとなく、ハオの葉に会わない理由を察した気がした。



家に帰った花が、葉に叔父さんに会ったと話したら寂しそうな笑みを浮かべられた。
なぜだか、もうあまりそれを父に報告しないようにしようと思った。

何かに気付いたけど、それを知らないから何かわからない。
とりあえず今はわからないままでいいと結論づけて。



別れの数だけ愛を知る
真綿のようなそれはむしろ毒針のよう20111118
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