※ホラー、殺人要素あり
※普通に兄弟、家族やってる(た)









「ただいまー」
「おかえり、愛しの我が弟よ」
「相変わらず愛が重たいんよ兄ちゃん」

ラブラブ結婚生活も良いけれどたまには実家に顔を出すか、と葉が出雲に帰宅したのは今しがたのことだ。
兄から受ける常軌を逸してるんじゃないかと疑わうほどの冗談を軽くいなすのも久々だった。
おもしろい奴だと笑みを浮かべると彼もそれを返した。

父と母はどうにも落ち着きのない性分で、せっかく息子が帰ってきたというのに二人っきりで旅行中らしい。
たしか二ヶ月前はハワイだった、今回はいったい何処へ行っているのだか。

などと考えながら習慣づいたその足は真っ先に仏間へと進んでいた。
マッチで火をおこし、ろうそくに明かりを点す。線香をあげて手を合わせる。
数秒間目を閉じてななめうえを見上げた。壁の上部に祖父の遺影が飾られている。

祖父が亡くなったのはわりと最近のことだった。
幼い孫に御家芸を教えたり、二人の父が引き取ってきた少女を大切に育てたり、葉と、現在の奥さんを引き合わせたり、何から何まで感謝してもしたりない人だ。
そういえば、最後の最後までお見合いも結婚も大反対していたのは兄だったな、と思い出す。本当に互いの依存度がひどかった幼い日々はもう懐かしい思い出になっていた。

仏壇の前から立ち上がり、祖父の思い出に浸りに行こうと彼の部屋を目指した。たしかまだ亡くなったときの状態のまま保存されているはずだ。
御家芸を長男だからという理由で引き継いだ兄の手だけでは広い麻倉の屋敷を手入れすることができなかったらしい。
隠居だとか旅行だとか言っている自称放任主義の両親にはほとほと呆れる。

一応現在の家主である兄のもとへ顔を出すと、笑顔で了承をもらえた。
時間もお昼を少し超えたぐらいだったので、作ってくれるそうだ。

祖父の部屋に入るのは何年ぶりだろうか。
文机の上には見覚えがあるペンがある、幼いころ、彼の誕生日に贈ったものだ。ところどころ、プレゼントの類いが大事に取ってくれていたことがわかる。「じいじだいすき」なんて下手くそなクレヨン画まで額に入れられていてこそばゆい。
棚の上に写真も並べられている。ひとつだけ伏せられた写真立てを起こすとそれは葉の結婚式のものだった。葉たちが小さいころから順々に成長するように左から右にかけて飾られている。
こんなに几帳面な祖父の最後には認知症の気があったことが嘘に思えてならない。少なくとも葉の記憶にいる祖父は全く無縁な存在だ。

壁を見ると、昨年、彼に贈ったプレゼントが貼られていた。

御家芸は実に霊的なものだったが、反面、科学的なものにも少し興味があるようにみえた祖父に美しい色で彩られたポスターを贈っていた。黒地にキラキラと輝くのは拡大された元素の写真だ。
元素記号だなんて葉からすれば学生時代の苦々しい記憶しかないが、そういった知識を持たない祖父は嬉しそうに受け取っていた。
いつだったかの電話ではその配列を見事に覚えきったとも言っていた。
それに対して「“シップスクラークか”という響きしか覚えてない」と言ったら「なんだそれは」と返されたことが記憶に新しい。つまり語呂合わせでもなんでもなく、そのまま頭に叩き込んだのだ。勉強嫌いの葉には考えられない、彼の勤勉さはきっと兄が受け継いだのだろう。

ポスターの横を陣取っているカレンダーは1月のままで時間が止まっていた。

何の気無しに、葉が2月のページをめくると何故か16日だけがカッターか何かで切り取られていた。
不審に思い、さらにめくれば3月、4月、5月、6月、7月にかけてどこかしら日付が抜けている。
いくら血がつながった祖父の行為だとしてもさすがに気味が悪くなり、眉を寄せた。
めくる手を止め、部屋をさらに物色する。次に目に写ったのは掛け軸。
葉には理解出来ないような風流な絵が好きで、季節ごとに変えていた祖父が懐かしい。
季節は冬で止まっている。
もう夏に差し掛かろうとしてるのに不格好だ、兄には後で許可をもらおうと、絵を代えるために取り外そうと紐に手をかけると、掛け軸の台紙と絵の間に挟まれていたものがばらばらと落ちた。
ビビって「うわあぁぁぁっ!?」と声をあげたのは秘密だ。
もう挟まっているものはないことを確認して、一度掛け軸を元に戻す。
散らばった白い紙に数字が書かれていた。
小さく、祖父の達筆すぎて読めない筆跡で数字が、その裏は大きく印刷された見やすいフォントが。
カレンダーだと咄嗟に感じた。
あの不気味なカレンダーの切れ端だ。

2/16、3/1、4/10、4/14、4/17、5/6、5/16、6/3、6/7、6/11、6/12、6/17、7/2、7/3

首を捻る。なんだこれ。
ぴらりと裏面を向けると数字こそばらばらに、ひとつふたつ数字が並べられている。

文机の上にあるペンと紙を一枚頂戴して、順番通りに日付を書き出す。

4/17 2/16 7/3 6/3 4/10 6/11 3/1 6/12 5/6 7/2 6/7 6/17 4/10 4/14 5/16

すべて日付の裏を向けると数字がそのままの形で刻まれていたが、唯一、6月17日だけは同じように裏を向けると「12」が逆さ文字になっていた。
それ以外に変わった様子はないように思ったが、そもそもこの状況がおかしいのか。

「よーうー、お昼出来たよー、お皿出したりテーブル拭いたりしてよー」
「おー、今行くー」

ちょうどよく腹の虫が鳴き声をあげた。
日付を書き留めた紙を畳んで、ズボンの後ろポケットに入れる。
空腹感が今までの奇妙さを押し退けた、久々の兄の手料理が楽しみだ。

「ハオの飯、楽しみだ」
「僕としては葉が食べたい」
「またふざけたコト言ってんな」
「違いますぅー、本気ですぅー、葉が結婚して外行っちゃってから淋しいんだからねっ!」
「はいはい、じゃあ今日は兄ちゃんと風呂入る、お背中流しますんよ」
「ほんと!?ワーイ!!」

葉に飛び付いて喜ぶ兄に苦笑しながら葉はカレーをついだ。
二人の好物だ。
未だにハオは異常なまでの言動を繰り返すけれども大切な兄弟に変わりない。

葉は知らない。
ハオが葉から自分が見えないときに表面に出す顔を。
たとえば、今のように正面から抱き着かれて葉の首元に頬を押し付けてじゃれているとき、鋭い眼光を放ちながらニヤリと笑っていること。

静かに、葉のポケットに入れられた紙を抜き取ったハオは中を見てほくそ笑んだ。

葉からのプレゼントを喜んで受け取った祖父は元素記号にやたら詳しかった。
“水兵リーベ”の語呂合わせでもなく周期、族まで記憶していたのだ、ご老体のくせに素晴らしい頭をしていた。
ハオの危険嗜好に感づき、葉を外に追いやっただけのことはある。
いくら反対しても葉はあの女にハマるだけ、虚しく引きはがされたハオは祖父に対してどれだけ恨んでも恨みきれなかった。

「葉だいすきー」
「はいはい、ありがとなー、よし、食おう、オイラすっげー腹減ったんよ」



狂気的I LuV U
葉に聞こえないように、ぐしゃりと紙を握り潰した。











ヤンデレハオ葉を目指しました。
参考は意味が分かると怖いコピペ。


ネタバラシ。

4/17 2/16 7/3 6/3 4/10 6/11 3/1 6/12 5/6 7/2 6/7 6/17 4/10 4/14 5/16
Br  O  Th Er Ni  Au  Na Hg  Mo Ra Re At  Ni  Ge  Te

Hgはそのまま元素記号として読む。(水銀:摂取すると中毒を引き起こす猛毒)
6/17は向きが逆だったのでAt→ta
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -