※ 葉さん往生際設定
※ 1番輝いてた頃=シャーマンファイトっていう
※ 即席転生観あります
すべての感覚が薄れていく
ゆっくり、ゆっくりと寝そべった身体から地球から引っ張られるはずの重力さえもなくなっていく
その昔、どこぞの大仏様に地獄送りにされた、速度は違うが、感覚としてはまさにそれ。
目を閉じれば、瞼の裏に思い浮かぶ思い出と
瞼を開ければ、心配とか安堵とかたくさんの気持ちが詰まった表情を浮かべるアンナがいる、はずだった。
だけど実際、目を開けて、そこにいたのは
「いらっしゃいませ極楽へ!」
「………地獄かここはぁっ」
目を手の平で覆って、嫌々と駄々を捏ねながらごろんごろんと転がった。
「何言ってるのさ、キング様の近くっていうことは極楽じゃない」
「嫌だ、オイラの極楽はアンナの側だ」
「はい、さりげなく死人がのろけな〜い」
ていっという掛け声と共に葉の横腹に惚気にイラッときたハオが笑顔で足蹴にした。
ぐぼぉっという悲鳴とも言えない声が葉から漏れた。咄嗟に患部を押さえて半身を起こした葉に向き合うように、よっこらせとハオは胡座をかいた。
「ま、なかなか良い人生だったんじゃないの、麻倉の後継もちゃんといることだし」
「あぁ、その説はどうもな」
咳込みながらそう言った葉の面影に絶賛反抗期真っ只中だった彼の息子が見えた。ハオは苦笑しながら引き合わせた少女のことも思い出した。
「御礼言われるようなことじゃないけどね」
「まったくだな」
「ちょっ!傷付いた!!」
そこまでして葉はハタと自分の姿が幼くなっていることに気が付いた、年輪を重ね、刻んでいた手が幼くなっている。
年など十二分すぎるほどとっていたはずだったのに、
「死ぬ間際の最後に思い出したのがこの姿の頃って、葉もとんだマゾヒストだね」
「いろいろ有りすぎたんよ、どっかの兄ちゃんのおかげでな」
「うわ、地上年齢おじいちゃんに兄ちゃんとか言われたくない」
「オイラ+1000歳が何を」
「僕おじいちゃん年齢まで地上にいたことないもん!」
そこにエヘンという誇らしげな言葉は褒めるべきなのかどうなのか悩んだ葉は適当に返した。
懐かしい感覚を思い出した、無機質だとかそんなものも何もないただ葉とハオの魂がそこに在るだけの、葉がハオにあんまり人間好きじゃないと言ったときの
「で、人類滅ぼさないあたり、オイラたちは上手くやってたってことか?」
「君達なんてたいした存在じゃないよ、個人の力でどうこうなるほど人間の罪深さは完全に救われることはないんだから」
「……まー、そりゃそうだな、花とか、そんで花の子供とか、そこまで繋がるんだろ?」
「そうだね、神様したら人間だなんて一瞬だけの存在なんだから」
「んなこと言ったって、おまえだって神様在位期間は500年くらいだ、ろ?」
葉の言葉が歯切れ悪くなった。
「なあ、ハオ」
「どうした?」
「先代のキングは、どこ行ったんだ?」
ハオはにこり、微笑んだ。
「僕が王の社に辿り着いたときには、もういなかったよ」
「………何処に」
「葉、おまえも地獄で見たんだろ、弱い奴はどうなるかぐらい」
もちろんだ、と葉はゆっくり頷きながら生唾を飲み込んだ。
「シャーマンキングは、心が1番強ぇ奴なはずだろ?」
「良いこと言うねー」
よしよし、と葉の頭に向かって伸ばされたハオの手をごまかすな、と払う。肩をゆらしたハオはのんびりと上を仰ぎ見た。
「葉は初めてグレートスピリッツ見た時、意識飛ばしたらしいね」
「……いまさらなんなんよ」
少し頬を赤らめて唇を突き出す。
話を逸らすな、と睨みをきかせるとそんなことしない、と呆れたように笑うハオがまた葉を見据えていた。
「いくら強い奴でもその凄まじさ、長年持ち堪え続けられるものではないっていうことだよ。だからキングを選ぶんだ…今になって思うんだけどシャーマンファイトを告げる流星・羅轟は、星の王が墜ちたサインじゃないかなって」
脳裏に元民宿・炎で見た星が浮かんだ。
あの頃は、遂に来た、とか恐れや不安、それ以上に期待を含めて見ていただけだったがそう思うと、ぐい、と胸が締め付けられる。
「あれ」は王の魂の葬送だったのか。
「例外もあるけれど、魂はやがて、その意思さえあれば生まれ変わる、自力でやってのけてた僕が言うんだから間違いない」
葉が渇いた笑いを漏らすことを期待していたハオは予想に反して真剣な面持ちのままだったため肩透かしを喰らった。
「………大丈夫、僕は大丈夫だよ」
心が読めないって不便だな、と内心苦笑しつつ、ハオは葉を正面から抱いた。
「魂が生まれ変わるって、いつだ」
「地上の誰もが、その魂があったことを知らなくなった時、かな」
葉の目に涙が貯まる。
ハオの背中に腕を回し、ぎゅ、と抱きしめた。
「おまえは、500年『ココ』に縛られてるんだな」
ハオは何も答えなかった。ただ、考えがまとまる葉を待っている。
「オイラは、もっと、地上でおまえと一緒にいたかった」
胸が痛いほど締め付けられる。
それと同じくらい、相手は抱き合う腕に力を入れる。
言いたいことは、数え切れないほどある。
それは喉まで出かかって、そこで引っ掛かった。
「 」
ようやく腕を外して目元を拭った葉も何か言いたげだ、ぱくぱくと口だけが動く。
ふ、と笑んだ葉の目が、トロンと眠たさを含んだ。
「やっぱりな、長時間はこんなとこ常人には無理なんよな」
「失敬な。まるで僕が異常人みたいじゃない」
「おまえは変人だ」
よっこいせ、と葉は立ち上がった。
「ついにオイラも仏さんの仲間入りっぽいから、地上行ってあいつらに会ってくるな」
背中を見せた葉の姿が霞みがかって消えていく。
「はぁー。シャーマンは自由だねー」
「誰かさんが強かったから、少なくともオイラの孫の代まで安泰なんよー」
軽口を叩く葉には先程までの弱々しさが微塵も見えなくなった。
「 ハオ 」
手の平が空に上がり、左右に振られる。
「またな」
そう言って、二度と肉体には戻れない葉は、地上に戻った。
××年後の約束
大丈夫、僕はそれだけで強くなれる