基本的に勉強は苦手だ。
やればできる、やればできると言われ続け、やったら出来たと自分でも分かっている………だけどやる気がおきないから。
「はい、麻倉赤点〜」
「うぎゃっ」
先生が机の間を歩きながら、生徒一人一人にコメント付きで採点済みの答案用紙を配っている。
あちゃー、と頭を抱え込むと前の席にいるまん太が振り返り、心配そうに見つめて来た。
ちらっとそちらを見ればケアレスミスだけのほぼ満点に近い数字が見える。
「あー、30点越えなかった奴は居残って問題やり直しなー、今日の放課後までに提出することっ」
チラリとまん太を見ると、「ごめん、今日塾なんだ」と言われた。
そんなに分かりやすいんか、オイラ……とさらに落ち込み、ごろ、と横になると、目線の先にいた奴がこちらを向いてニコリと笑った。
気恥ずかしくなって首の向きを変えて寝付こうとしたら、頭を押さえ付けられた。机にぶちゅっとしそうだ。
「…………麻倉、おまえ先生の授業はそんなに嫌か」
「ごめんなさいすみません大好きです痛いです、先生愛が痛いです」
まったく、とばかりに溜め息をつかれ、やっと授業らしい授業がはじまった。
それでもやっぱり分からないものはさらに難しいとこを聞いても分かるようになるはずがない。
先生の注意も虚しく、結局は眠気との決闘となる。
そしてもはや諦めた教師はそれ以上授業中は何も言わなかったが、無駄に葉に対しての課題だけ量を増やして下さった。
学校周辺に生息しているカラスが「アホー」と鳴いる。
もちろん、と言うのも悲しいけれども放課後居残って問題を解き切れる自信は限りなく0に近かったし、実際教室に残っているのは葉だけになってしまった。
数学の問題に悩ませられながら一向に解決する見込みが見えてこない。
教室の後ろのドアが開いた。
「………まだ帰ってなかったんか」
「まあね」
ハオがかたん、と葉の前の席に座った。
「葉がどこに悩んでんのか気になるし」
さらりと頬にかかる髪を耳にかけながら葉の課題を覗き込む。
葉は黙って苦戦中の問題を指さした。
「……直線y=ax+4と直線y=1/7x-5が直角に交わるときのaの値」
ハオは勝手に葉の筆箱を漁りシャーペンを取り出すと、紙に適当に線を引き説明し始めた。
今までどうして分かっていなかったのか不思議になるくらいあっさり納得できた。
「あーつまり直角にするためにxの係数同士が-1になれば良いんよな、……−7か」
「その通り。じゃあ次のプリント……ないね、終わり?」
「おう」
「じゃ、僕からスペシャル問題ね」
「うぇー」
プリントの裏の白い面を使って『cosα−cosβ』と書き出した。
それたしか、教科書で見たな、と思い、つづきを書き出した。
sinA・sinB = -1/2{cos(A+B)-cos(A-B)}
において、
A+B = α
A-B = β
とおくと、和積公式
cosα-cosβ = -2sin{(α+β)/2}・sin{(α-β)/2}となる。
「………やりゃあできんじゃん」
「知ってる」
「じゃあラスト問題ねー。AはBのことを何となく目で追っちゃって、そっぽ向かれても可愛いなーなんて思ったりして、少しでも話す機会があればあやかりたいと思ったりしてて、好きなんだなーと自覚したりしました、さぁ、Aは誰」
「それじゃ謎々なん……よ…?」
だんだん顔に熱が集まってきた。
恥ずかしくなって、急いで立ち上がる。
「プリント提出してくる!」と言って逃げ出した。
職員室に件の教師がいなかったため、彼の机に置いて退出した。
教室に戻らないとカバンがない、ハオがもう帰ったことを祈っていたのに、そんなに甘くはなかった。
「お疲れー、で、葉、答えは?」
無視しようと思ったら、襟首を捕まえられて引き寄せられていた。