これのつづき、フラワーズネタバレ!





口をへの字の曲げて腕を組んでいた。その脇ではちょっと前に痛め付けたザンチンとビルとちびで喋るブロックが陰欝な感じの女三人からぼろくそ言われながら傷口に消毒液をねじくられて大袈裟な声を出している。
塩でも塗れば良いものを、と心の中で唾を吐いた。
実家に比べて安っぽい窓ガラス越しに見た空が少しずつ赤みを帯びてきている。
昔、父から渡された新・馬孫刀を右手に構え、手応えなどあるわけがないが、空を相手に点く。 今、ボロボロになったうえにぼろくそ言われ続けて精神的にもくたくたになっているような大の大人が避けようとする自分の攻撃を受け止めることができる人間が両親以外にいるとは思いもしなかった。
あの弾かれたときの慣れない衝撃が腕をぶるりと襲う。 腹が立つのと同じくらい胸からワクワクと沸き立つものがある。
よく分からなかったが、あの男、大声を出して出て行ったが、すぐに帰って来るわよ、そう言って笑う桃色の髪の女がそう言っていた。
月刊と間違えて買って来られた別冊ジャンプをめくりながらも心此処に在らずで、ちらちらと時計と窓の外に視線が泳ぐ。

また、あいつと手合わせしたい。

早く、早く、

黽は立ち上がり、傷の消毒でひいひい泣いていた大人たちは放って、廊下に出た。
玄関にはまだ、自分が付けた刀傷が残っている。
美味しそうな香りがする、そちらはきっと調理場なのだろう、歓迎会がなんだとか言っていたからたいそう豪華なのだろう。 そこから二人分の声がする、桃色女と変な髪型男だということは、今、自分は珍しく誰にも見られていない。

ほんの少し、下々の世界を散策するだけだ

そう考えながら、金色のローファーを履くと、さっさと外に出た。 ふん、鼻を鳴らして初めての探険に浮かれる自分をごまかした。
烏が鳴いた。
蝉がミンミン煩い。
さすが下々の世界だ。










「っていうか、アタシ行っていいの?」
「ダーイジョウブ、オイラんち売れない民宿だから使われてない部屋くらい……いや、なんかチビがホームステイだとか言ってたような」
「なにそれはっきりしないわね。頭まで弱いの?」
「だーっから! オイラは弱くねえ!! さっきは油断しただけだ!」

花から数歩うしろを離れて歩くアンナにウガッと唸ると予想通りのうざそうな顔をされた。あまりにも予想通りすぎて面白くない、舌打ちをしてまた帰りの道を歩きだした。
紅い空を飛ぶカラスがカァカァと鳴いていた。アンナはゆっくりとその姿を追い掛ける。
彼女の視線はキョロキョロと目新しいものを見付けては浮足立つように悠然と観察する奇妙な子供を向かい岸に映していた。



家出してやる!と喚いてまたまた戻ってきた家は騒然としていた。
特に客人の騒ぎ様が凄まじく、花の目が点になり、その横でアンナは白い目でドン引きしている。

「……アンタんちいつもこんななの?」
「……いや、ここまではなかった」「坊ちゃん!」

花を見付けた竜は汗だくになりながらリーゼントをゆっさゆっさと揺らして、走り寄ってきた。アンナが自分の鼻をつまんでいた。

「竜、どうしたんだこの騒ぎ。主にあのハゲとデブ煩い」
「ちょっと目を離した隙に黽坊がいなくなっちまったんすよ!!まだ来たばっかで土地勘もないだろうし、何より親馬鹿っぷりが凄まじいあいつら怒らせたらと思うと!
 ………ん?こちらのお嬢さんは?」
「ちっ、とりあえずあの生意気どチビが先だ。竜、オイラ外を探してくるから、こいつ家にあげてやってくれ」

花がアンナを指差し、ちらりと空を見詰め「阿弥陀丸」と叫ぶとドロン、と現れる。

「上空からあのバカチビを探して」
「御意「その必要はないわ」

出番、取られた、と阿弥陀丸が憔悴した表情を見せている姿を横目に花と竜は声を発したアンナを凝視した。

「そのガキを見付けるまでが無駄じゃない、とっとと居所知ってる霊を呼び付けちゃえば一発よ」

不敵に笑う少女を呆けた顔で見詰めていると、あまり時間を費やさずに彼女は数珠を取り出して浮遊霊を呼び出した。

「……私たちがいた川の向かい側、下流に向かって歩き続けてる」
「わかった」

頷いた花は今来た道を引き返して走り出す。
わなわなと震えている竜は少女を指差して、敬愛して止まない人物トップ3のうち一人を思い出している。

「な、なにもんだ、アンタ」
「アタシ?名乗るときは自分から名乗りなさいよ、木刀の竜。」
「!!」

かつての懐かしい通り名。
久方ぶりに呼ばれてフリーズした竜を見たアンナはくすりと笑みを浮かべる。

「アタシはパッチの十祭司シルバの娘にして、初代アンナの1番弟子、3代目のイタコのアンナよ」

思わずどさっ、と尻餅をついた竜の前で踏ん反り返った様は、本当にあの少女の姿にうりふたつであった。








川辺が見えたところで花がこめかみから流れ落ちた汗を手の甲で拭い、切れ切れになった息を落ち着けようと膝に手を当てていると、武人の霊がわたわたとしている様が見えた。よっぽど疲れたのかジッと座っているらしい。
ガキは小さくても持ち霊がデカくてよかったな、と思いながら花は制服のポケットに手を突っ込んだままゆっくりとそちらに向かって歩く。

「お散歩は終わりですか坊ちゃま」

厭味たっぷりにそう言い放った花に気付いた、座ったまま黽は勢いよく声がした方向を振り返る。
武人は安心して姿を人魂に変え、花は黽の近くにしゃがみ込んで目線を合わせた。

「土地勘もないくせに何勝手に出歩いてんだ、馬鹿かおまえは」
「な!この俺に馬鹿だと!!何様だ!!!」
「はー、うるっさいガキだな」

黽の胸が詰まり、鼻がツンと痛んだことなど露知らず、花はボリボリと面倒臭そうに頭をかく。
そんな乱雑な扱いなど、彼は受けた記憶がなかった。

「大人に心配かけさせておいてデカい面してんじゃねーぞ」
「き、貴様だって家出と喚いて外出していただろうが!」
「う、うるせー!聞いてたのかよ!オイラはいいんだ!」
「貴様とこの俺の何が違う!」
「だーっ、もうホンットうるさいなあ!!」

クワッ、と白目をむいた花が勢いよく立ち上がり、黽は微かに肩を揺らす。
花が夕陽で黽に影を落とす。黽が恐る恐る目線を上にあげると、そこにうつったのは自分よりも大きな手の平だった。

「帰るぞ」

黽は少し躊躇ったあと、いかにも不承不承とした顔をしたまま立ち上がり、その手をとる。

「……俺は、貴様とまた勝負したいから迎えに来てやったんだ」
「あーはいはい。そりゃどーも」

ぐっ、と力がこめられた手に釣られて花は黽を見る、その顔を見てギョッとした。
「あー」「うー」と変な声を発したが、かける言葉が見付からなかった花は幼い手を引っ張りながら今度こそゆっくりと帰路を辿る。面倒臭い、あいている手でまた頭をかく。
今日の夕飯は、さぞかし豪華じゃないとこの子守の割に合わないな、と心の中でぼやいた。

しょげないでよベイビー




20110607
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