当日、とてもじゃないけど、昨日は眠れなかった。
学校に行くのも億劫で、でも行かなきゃ、とズルズルと体を引きずって登校した。
廊下をぼてぼて歩いていると、ちょうど教室から葉が出て来た。

「…………よぅ」

言葉を探したが出てこなかった結果、それだけが声になった。

「おはよ」

葉は素っ気なくそれだけ言うと、俺とは逆方向の方へずかずかと行ってしまった。

避けられ…いや、便所だろ、いや、でもあっち遠い方だよな…

一度も目を合わせることもなく、ステージに上がる。
歌は問題なく進む。
終盤、何かが込み上げて来た。

もう、葉と2人で会うこともない
怒らせてしまって、仲が修復するかも分からない

ピアノの音に合わせて礼をする。
ちくしょう、こんな時に下向かせんじゃねぇ

ステージからやっと退場になった。
裏の扉から出れるようになっている。
そして、講堂の横の扉から入り直して、他のクラスの合唱を大人しく聞かなくてはならなかった。
が、俺は敢えて、裏に出た瞬間、流れとは逆の横扉の方に繋がる廊下に向かって走った。

「ホロホロ!どうしたんだ?」
「トイレ!!」

チョコラブの問い掛けにそう返した。
頼む、誰も付いて来るな

「ホロホロ!」

走る俺の手首を掴まれた。
声で分かる。
葉が追って来たんだ。

朝まで怒っていたくせに、なんでよりによって今

「…付いて来んじゃねーよ」
「…だって蓮が追い掛けろって言うから…」

あいつか!
心の中で蓮に対して毒ついてるなか、ひょっこりと葉は俺の顔を覗きこんだ。
反射的に、顔を腕で隠した。

「…泣いてんのか?」
「……………」

無言の肯定。
葉が眉をしかめたことが雰囲気で感じられる。

「…そんなに良かったか、合唱」

なんて的はずれなことを!
少し怒って思わず、葉の手首を掴んで、逃げられないように壁に押さえ付けた。
ザラザラとした粗い壁に葉は嫌そうな顔をしたが、今は目をつぶってもらう。

「なんで追い掛けて来たんだよ、蓮に言われたとか言ったってそれまで全然、目も合わせなかったくせに!!」
「だって、それは」
「昨日だって、はっきりした答えはなかったし!」

それは絶対答えなきゃいけない訳じゃないけど、少なくとも俺の胸の靄は消えると思う。
やっと分かった。

「なんで昨日泣いてたんだよ!」
「………オイラ、泣いてないぞ」

へ?と思わず顔が弛んだ。

「だいたいホロホロがさ、オイラが好きなのはシルバだとか言い始めてさ…オイラは、合コン終わるのサミシーと思ってただけなのに…」

つづきは言わずに顔を真っ赤にして葉は俺を見た。
え。なんで。

「密会理由なくなるだろ」

これは
そう捉えて良いのだろうか。

「葉」
「ん」
「好きだ」
「ん」

葉の肯定の言葉に理性の蓋はぶっ飛んだ。
壁に押し付けたまま葉の唇を捉えた。

今歌っているクラスの選曲は恋が叶って嬉しい、そんな歌詞の曲だった。






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