(キング決定直後のはなし)



ハオがシャーマンキングになった。千年前から言い続けていたシャーマンキングダムの建設は先延ばしにするらしい。
彼の心も救われ、多くの人達をたくさんの意味で巻き込んだシャーマンファイトはこれにて決着したのである。
グレートスピリッツの最上部にいた今回のシャーマンファイト参加者たちが次々とある者は背を向け、ある者は笑顔で、ある者は手を振り、それぞれがそれぞれに彼等が居るべきである場所へと帰っていった。
千年近くもの間、見付からなかったハオの母、麻の葉も彼を一撫でして戻って行ったが二度と見付けられないということにはならないだろう。
そして最後には、ハオだけが残るはずだった。

「で、お前は何時まで此処にいるつもりなんだい?」
「直ぐに帰るさ」

連れない事言うな、と葉がゆったりと笑いながらハオの側に歩み寄った。

「こんなこと言うのも癪だけどね」

どっこらせ、とハオが腰を下ろし、葉は彼に倣い、隣に座る。

「生きてる間は、他の誰よりも強い力を持っていたから勝ったことしか…って負けたわけじゃないけど」
「うぇっへっへ」
「笑うな」
「負けず嫌い」
「うるさい、話をきけ」

ぼこっ、とハオが葉の頭を殴るも、笑いつづけられるくらいの軽いものだった。しかし、葉は笑い声を止める。
まったく、と呟き鼻息を吐ききったハオはまた話をはじめた。

「もう……まあ、心の動揺は敗北の始まりだけど……その敗北は久々だったよ」
「オイラはよく知らないけど、はじめてじゃないんか?」
「そうだね、負けらしい負けって、殺された時だけだったしね」
「その度に閻魔大王に会ってたんだろ?」
「500年後に生まれるようにね」

体操座りのように脚を畳み、膝を抱えたハオは腕に顎を預ける。

「負け知らず……だったんだけど、負けて分かるものもあるんだって、さっき知ったよ」

あぐらをかく葉は、ハオを見ながら内膝に肘、掌に顎を乗せて静かに頷いていた。

「…………だから……ありがとう」
「おう」

ハオの全てを集約した言葉に、葉は単純に返す。内に秘めた想いは今では読めなくとも感じることはお互いに出来る。
互いに顔を合わせると、ニシ、と笑い合った。

「葉はずっと僕に気にかけてたよね」
「あぁ、なんでか分からんけど、さいしょに猪口浜基地で会ったときからな」

懐かしい、と大きく伸びをして上を仰ぎ見る。

「圧倒的な力を持って、たくさん仲間を連れててすごい自信家で……なのにどっか、何となく淋しそうに見えたんよ」
「変なの」
「だろ?だから周りの奴には言えなかったし、オイラ一人でずっと考えてた」

知ってる、という言葉は胸の内に引っ込めた。

「僕のやってきたことは一部でも知ってるだろ。憎まれたり怒りや恐怖を向けられることは多かったけど……葉みたいな気持ちを向けてくる奴は本当に珍しかったんだ」

そして純粋に嬉しかった。
まだハオと葉自身の因果関係を知らない内から、知ったあとも変わらない葉の存在は。

「みんなお前を倒す、シャーマンキングにはさせないって言ってたけど、オイラは何か違うって思ってたんだ。っていうか無理だし」
「ちょ……そりゃそうだろうけど雰囲気ぶち壊し」
「まあ実際、オイラ自身は何も出来んかったんは情けないけど本当だし」

葉の発言にハオが茶々入れをするとうぇへーと緩い笑みを浮かべられる。

「……ハオ」
「………なに?」

顔を見合わせたあと、葉はハオの肩を組んで自分の方へ引き寄せた。

「おめでとう!」

葉の言葉にたくさんの意味が込められていても、ハオがそれらを正確に受け取ることはもうできない。

葉の身体が少しずつ泡のように光り、透けていく。
葉がいるべき場所へと向かっているようだ。

「…ありがとう」

二人の耳に、にゃあ、とか細い猫の声が響く。
二人揃って声のほうに目を遣ると、痩せ型の猫がにじり寄ってきていた。

目を見開くハオを腕から解放した葉は、その背中を力強く叩く。
なにをするんだ、と批難めいた涙目を寄越したハオに目一杯の笑顔を送り「よかったな」と言い残して行ってしまった。



葉を象っていた光の粒が完全に見えなくなるまで見続けたハオは、そろりと手を猫に向かって伸ばす。
葉がハオのために何も出来なかったとしても、葉がハオのことを強く想っていたことは本当で、それがどれだけ救いになっていたのかだなんて知る由も無いのだろう。

「………来やれ」

昔言った言葉を準えるだけのことに必要なものは葉がくれたとハオは思っているのに。

猫が少しずつ、しかし次第に速く走り、最後にはハオの腕の中に飛び込んだ。
感謝はしてもしきれない、何時の日か葉の背を押せる、ほんの少しになりたい、そう思いながらマタムネを抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた。


この想いは嘘じゃない



20120804.ハオ葉の日にあわせて
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