竜とカンナ /×要素は微妙

※ふんばり温泉



料理の仕込みが終わった竜は喉元が閉まるのを感じた。ニコチンを欲している。
料理し始めるにはまだ早いと判断し、従業員専用口という名の勝手口から出てポケットから愛用のタバコを一本取り出して唇に挟み、片手で口元を覆いライターをもう一方の手で探した。
あれ、無い。たしか尻ポケットに入れていたはず。

「おにーさん捜し物?」

突如声をかけてきた主を探すと愛煙家の休憩用にと勝手口を出て右手沿いの壁が角を画いた先に設けられた長椅子の方らしい。
にゅっ、と伸びた白い腕の手元は見覚えのある緑透明の百均ライターを細い指二本で挟みヒラヒラと泳がせていた。

そちらに向かうとそのライターを器用に竜に向かって後ろ手で投げ渡され、胸の前で掴みとる。

「忘れもんだよ」
「ありがとよ」

竜と同じくふんばり温泉の数少ない愛煙家のカンナは仲居着物をご丁寧に腕まくりして襷掛けで止めていた。
脚を組んでいて未だ完璧には着こなせていない着物からぱっくり見える白く長い脚にうっかり目が行くのを押さえて竜はカンナから目を逸らし、ひたすら自分の鼻先を見詰める。
組んだ脚に肘を乗せ、その手には顎を預けていた。

愛用のタバコを取り出し、彼女におすそ分けしてやろうと右手を差し出したが手の平を振られて終わる。

「いらないわ、気分じゃない」
「そうかい、……じゃあなんで此処にいるんだよ」

ぐちぐちと本音を零した竜はその場に立ったままいつものようにポケットにタバコを仕舞い、片手で風を避けながらライターを点火し、タバコに火を点した。
赤く熱を帯びたタバコ先から中の少しの空洞を伝い、少し温度が冷めたその煙が喉を通過していく。
はぁー、と口から鼻から煙を出すと先程まで感じていた欲求不満が少し軽くなった。

「考え事するにはちょうどいいのよココ。滅多に人来ないし」
「だからか。たまにあの二人がお前さんを必死に探し回ってんのは」
「多分ね」
「ったく……あんまり心配かけてやんなよ」

言いながらまた煙を肺に送り込む。
送り込んだ煙をまた口から吐き出した。白い煙はすぐに空気に霧散して消える。

「……ウチらはさ、互いに依存度が激しいんだよ」

ぽつりと発された言葉に竜は静かに耳を向けた。ジリジリとタバコの先端が灰になっていく。
落ちそうなほどになっていたので灰皿がわりに置いていた缶にそれを払い落とした。

「ハオ様が二回も死んだ…一度は魂ごと消そうとしたうちらをまだ生かしてくれてんのに、あの頃と本質的なところ何も変わっちゃいない」
「そうか?」
「そうなんだよ。せっかく生きてんだ、働かしてもらっといてなんだけど、誰かに縋ってその人の夢に便乗するような生き方はもう、変えたいな、って」

竜は元来兄貴肌だった。誰かに悩みがあれば馬鹿だから解決はできないけれど話だけでも聞いてやる、仲間なのに一人きりで背負おうとするなんて水臭いじゃねえか理論の持ち主は今回も黙って聞くことに徹する。
そもそも誰かに話し出すっていうことは、だいたい気持ちは固まってきている証に他ならないから、余計なことは言わなくて良いのだと思っていた。

「……と、思ってその第一歩を実践中」
「第一歩?」

母屋から着実に大きくなっていく子供の声が響く。また新たに旅に出た家主二人を思い出した。
どうやら、たまおかみにこってり叱られているところのようだが、カンナの頬が微かに緩む。

「アタシはさ、エクトプラズムのカムフラージュもあったけど、ずっとヘビースモーカーだったのよ」

でもさ

「子供って、かわいいよね」

それを聞いた竜は思わず鳩が豆鉄砲を喰らったような表情になる。
ぼろり、とタバコの灰が落ちた。

「そうだな」

そう言って、まだ吸えそうなタバコの火を消す。
数少ない愛煙家仲間だった彼女の禁煙に付き合うかどうか少し悩んだ。



ワルプルギスのあとは

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カンナちゃん母性が芽生える(副題)
意外と大人男子竜と大人女子カンナの組み合わせにキュンとした。背が高い。
ワルプルギスの意味は「魔女たちの宴」とかそんな感じらしいです、天下のWiki様でもよく分からなかったけど
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