「ごめん」


その言葉が彼に届いていたかは分からない。私はぽかんと口を開けていた彼に口付けをすると、そのまま一気に舌をねじ込んだ。彼の身体がびく、と小さく跳ねる。彼の口内はびっくりするほど熱く、粘着質な音は私の欲を煽った。逃げる舌を絡め、弄び、甘噛みする。その瞬間、私と大和田くんは引き剥がされた。他の誰でもない、大和田君の手によって。


「テメェ…何やってんだよ…」


顔を赤くして口を拭う大和田くんは見ようによっては相当そそった。私を睨む瞳もどことなく潤んでいて正直ムラムラする。口笛でも吹いてしまいたいが、そんなことをしたら今度こそ私は彼に殺されてしまうだろう。よって自粛。こんなしょうもないことで死ぬのは嫌だ。私はポケットに入っていたハンカチで顎まで垂れた涎を拭うと、なんてことないように答えた。


「キス、キスだよ、唾液の交換さ大和田くん」
「だからなんでンなことやってんだ!!って聞いてんだよ!!!」
「まあ、落ち着いてくれ。私は昨日少女マンガを読んでいたんだ。そしたらファーストキスは甘酸っぱいレモン味と言うじゃないか。だから本当なのか今検証したんだよ。ああ、なんてことない。君がさっき食べてたカップラーメンの味だった。あれは嘘だな」
「……ッ!!!お前なッ!女が軽々しくこんなことやってんじゃねェ!!クソが!!!」
「怒んないでよ。私だって悪気があったわけじゃないし、たかがキスくらいで、あ、もしかしてファーストキスだった?それは悪いことしたね」
「違う!!!!」
「じゃあいいじゃん。なんでそんなに怒ってるんだ大和田くん。分からない人だな、君は」




モドル