「で、要約すると、」


私が見たのは夢ではなく現実で、いきなり街中に屍系の悪魔(普通の人は見えないが、この世のなかに溢れていて悪さをしているらしい)が表れて(ただこんなに強いのが街中に現れるのはめったにないらしい)、祓魔師(悪魔を退治したりするらしい)の卵の勝呂くんが狙われて、その近くにいた私が流れ攻撃を受け負傷(これが魔障で、これを一度でも受けると悪魔が見えるようになってしまうらしい)勝呂くんが正しい判断で逃げていたからよかったものの、立ち向かっていたら死んでいたらしい。


「なるほど、全く訳が分かりません」
「まあ…一日のうちにこんな話を聞かされても理解できないでしょう…また、改めます」


そう言って会釈をすると眼鏡の人、奥村さんは部屋を出ていった。続いて帽子を少し上げ、にんまりと笑ってからフェレス郷も部屋から去った。部屋にいるのは私と、さっきから一言も話さない五割り増し強面の勝呂くんの二人となった。重苦しいどんよりとした空気が場を支配する。私はそれをごまかすように勝呂くんに声をかけた。


「あの…」
「すまなかった」
「え、いや、」
「あの時俺が、萩原のそばに居いひんかったら萩原に被害が及ぶこともなかったろうに…」
「いや、まぁ、仕方ないよそれは、どうにもならないことだし」
「仕方なくなんてないッ!!!」


それがあまりにも切迫した声で、私は思わず彼の顔を見た。驚いた。勝呂くんは、私まで胸が痛くなってくるような悲しそうな顔をしていたのだ。私はただ野良犬に噛まれたような気持ちだったけど、勝呂くんは。どうしようもなく胸に苦い思いが広がった。罪悪感だ。こんな顔をさせてしまっていることが申し訳なくてたまらない。目を伏せると勝呂くんの言葉が降ってきた。


「何より、俺が弱かったんや。自分一人ではなにも出来ひん…。詠唱騎士としては仕方ないことかも知れへんけど…!俺は、人一人も守れんのかい……ッ!」
「…」


詠唱騎士、とかはよく分からないけど、勝呂くんは大変な責任を感じているようだ。見た目と違い、本当に不器用というか、生きづらそうな人である。
…………これ、どうやって励ませばいいんだろう……。
緊張感の無い思想が頭を占めた。え、だってこれ、半分は私のせいだよね、いや、まあ不可抗力って感じなんだけども。オーソドックスに元気出してよ!とかは…いや、それは駄目でしょ、そもそもそれを言える空気じゃないし、私も落ち込んでる時に元気出してよって言われても元気は出ないしなぁ…どうすればいいんだろう…。自分の語彙の無さが恨めしい。
うんうん唸っていると勝呂くんが恐る恐るといった風に声をかけてきた。


「傷、痛むんか?」
「いや…、今どうやって勝呂くんを励まそうか考えてたところ」
「…………アホか」
「いや、真面目です」
「やっぱ変なヤツやな、自分」
「まさかそれを勝呂君に言われるとは思わなかったよ」
「うっさい」


ようやく部屋にいつも通りの空気感が戻ってきた。ナイス私。ナイス機転。これでいいんだ。勝呂くんは強い人だと思うし、私があんやこんや気を回した方が迷惑だろう。変にこじれるのも嫌だ。流れてしまえ流れてしまえ。
私はぐぐと伸びをして、生理的涙を拭うと、いつもより元気目な声を作って勝呂くんに声をかけた。


「とりあえず学食行こう!話聞いてたらいつの間にか夜だしお腹空いちゃったー。そして今日は勝呂くんのおごり!それで今回のことはチャラにしてあげよう!私の懐の深さに感謝したまえッ!」


勝呂くんはその言葉に驚いたようで目を見開いて、そして、それからどことなく嬉しそうに笑った。


「やっぱ自分、変なヤツやなぁ」




モドル