「(どうしてこうなった)」


意味が、分からないんだが。目の前にドアップの勝呂くんの顔。まあいいよ。それは許す。ただ、その背後に見えるゾンビ的なものは何だ。酷い腐臭と暴力的な見た目に眩暈。小学生の時顔面からすっ転んで以来出来なかった額の傷から滴り落ちる液体は、私をさらなる現実逃避のステージへと導いてくれた。

勝呂くんは私の隣の席の人だ。第一印象は顔が怖い。あと、どうやって真ん中だけ脱色したんだろうな、とぼんやり思った記憶がある。見た目は完全に不良である。ただ、話してみると意外や意外、常識のあるいたって普通、いや、普通より大分真面目寄りの人だった。飲酒も喫煙もしてないそうだ。ピアスも脱色もしてるけど。これは、大分見た目で損してるんじゃないだろうか。ピアス外して、髪も染め直せばいいのに。と思った。本人にも言った。そのところ、彼はそんなん直接言われたん初めてや、とレア的存在な笑顔を見せてくれた。どうやらピアスを外す気も、髪を染め直す気もないらしい。なんじゃそら。
まあ私は彼と一クラスメイトとしてか関わりを持たず、そんなに密接な仲ではなく、知り合い以上友達未満っていうか―――――。つまり、何が言いたいのかと言うと、こんな命の危機に一緒にいるような人では無い、ということである。


「クッ…!」


勝呂くんは苦しそうに呻いた。実際苦しそうだ。私をかばって受けた傷が白いワイシャツにどんどん染みを広げていく。うわ痛そう。完全に他人事である。まあ他人事ですけど。
ぼんやりと意識を飛ばしていると勝呂くんはいきなり私の手を引いて走り出した。バランスの悪い体制からもつれもつれ体制を整える。背後からドコッと何かが潰れるような音がした。不思議と恐怖心はない。あまりの現実味の無さに頭が付いていっていないのである。あらゆる仮説を立てては切ってを繰り返していく頭は全く核心に辿りつかない。
二人の荒々しい息遣い。背後の破壊音。勝呂くんの吐き捨てるような、なんでまたこんなとこにおるんや…ッ!という言葉を耳で拾って、その瞬間私は気が付いてしまったね。ああ、これは夢なんだと。そう思ったとたん、夢ありがちな現象でぐるぐると景色が廻り始めた。足ももつれて引っ張られるまま地面に突っ伏す。そのまま私は意識を失った。


「(それにしても、リアルな夢だ)」






モドル