「い、いや、触らないで」
「名前くん、」
「いやッ!いやいやだ、いやッ」


名字が首を振った衝撃で涙がぼろぼろ零れ落ちた。自分を抱き締めるように交差された腕は震えていて、怯えきった瞳は石丸を上目遣いで見ている。その姿に石丸は衝撃を覚えた。
名前くんが、あの気丈な名前くんが、何故?一体どうしたというんだ?僕は、どうすれば?頭の中の疑問符は増えるばかりで石丸を解決へと導いてはくれない。冷たい汗が背中に流れて石丸はぞっとした。分からない。慰めるべきか、諭すべきか、それとも、逃げれば?どうすれば、僕は。瞳がぐるぐると回りだす。不測の事態に弱い男、石丸清多夏。ぐっ、と拳を握ると名字を真っ直ぐに見つめた。名字の瞳がぐらりと揺れる。そして石丸はそのまま軍隊のようなキレのある動きで頭を下げた。教科書にでも乗っていそうな90度の美しいお辞儀である。名字がびくりと肩を跳ねさせた。


「すまないッ!名前くん!僕はきみを泣き止ませるすべが分からないのだ!しかしきみが泣き止んでくれないと僕は非常に困る!泣き止んでくれないか名前くん!それか僕にきみを泣きやませるすべを教えてほしい!」




モドル