「あーあ、フられてやんのー」


呆然と立ち尽くす大和田に桑田がニヤけながら話しかける。どうやら人の不幸が甘くて仕方がないようである。そんなことをされて大和田がただ黙っているわけもなく、大和田は怒声をあげ桑田に見事な右ストレートをお見舞いした。critical!桑田は痛みに悶えている!お前らもこうしてやろうかという脅しをかけ、大和田は野次っている他のクラスメイトをギリと睨んだがそんなことで引く生徒は現時点このクラスには居なかった。


「大和田君…そのぉ…元気出してねぇ…」
「ブフゥwwwwwwwやはり不二咲千尋殿は天使wwwwwwwwwwしかしメシウマ状態かと思いましたが…これはこれで凹みますな…」
「…今一つの淡い恋が終わったべ!」
「まあまだ完全に終わったとは、言えないと思いたいけど…」
「しかしものの見事にフられましたわね…」
「兄弟!大丈夫だおそらく次がある!諦めるな!…しかしこれを気に真面目に学業に励むという手もあるぞ!」
「と、とりあえず私名前ちゃんに連絡してみるね!名前ちゃんも今大変なことになってると思うし!」
「ちょっと待てオメェら!!」


怒鳴った大和田に視線が集中する。大和田は拳を握りしめながらぶるぶる震え、真っ赤になりながら怒鳴った。


「さっきから聞いてたらよォ…ふざけた事ばっか言いやがって…!特にフられただの恋だの!ふざけんな!!!!オレと名字はそんな関係じゃねェ!!!そもそもオレは名字を好きなんかじゃねェよ!!!!!」


それを聞いたクラスメイトは目を点にした。えっ、こいつ、マジかよ…。的な空気がクラス中に流れる。桑田と山田は半笑いをして顔を見合わせ、セレスと苗木は溜め息をついて、鈍さに定評がある石丸でさえ呆れたような目で大和田を見つめた。そんな中で不二咲がおずおずと手を挙げる。


「え、えぇっと…なんて言ったらいいか分からないんだけどぉ…、それは違うと思うよぉ…」
「だから…ッ!!!」
「怒らないで聞いてぇ!だって最近大和田君気が付いたら名字さんのこと見てるし、名字さんのことボクたちに聞いてくるしぃ…」
「それはアイツがオレにガン飛ばしてくるからであって…ッ!!」
「それに大和田君はいつも視線を集めていますが、大抵は一睨みで黙らせるのではありませんか?しかし名前さんには声をかけた、と…」
「それはアイツがしつこいから…ッ!!」
「うむ!僕は不二咲くんに聞いて、初めて気が付いたが兄弟は名字くんに対して恋愛感情を持っていると思うぞ!」
「兄弟お前も、」
「しかし不純異性交遊は」
「石丸クンは黙ってて!…ねぇ、大和田クン。キミは名前さんのことが好きでしょ!大和田クンの言動がそう語ってるよ…!反論は、できないはずだよね」


論破終了。と言わんばかりのドヤ顔で苗木は言葉を切った。その顔にいちいちいらつく大和田だが言葉が出ず、ただ拳を握り締める。


「……オレは…名字が好きかもしれない…いや好きだ。それは認める」
「流石大和田っち!潔い!!」
「でもな…それはそうだとしてもこれはオレと名字の問題だ!!外野はすっこんでろ!!!」
「すっこんでろって言われてもなぁ…」
「大和田と名前ちゃんに任せてもなんとかなるって思えないし…で!名前ちゃんからの返信!″私転校する。蟹風呂されるくらいなら風俗の方がまだまし″…だって!…蟹風呂?」
「完全に怯えきってるべ!まあ、無理もねぇべなぁ…」
「蟹風呂とは一体なんなんだ兄弟!」
「………蟹の風呂だよ…ッ!!」
「それは…えらく、金と手間がかかりそうだな!」
「えーと、とりあえず″大丈夫!大和田は怒ってないよ(笑)ところで大和田のことどう思ってる?″で送ってみるね!」
「えっ!それ聞いちゃう!?」
「桑田うぜェべ」
「送信っと!」
「……今なら…確信を持って言えますわ。この脳筋馬鹿に任せていては二人の恋愛は絶対に、ぜえッたいに発展しません。彼女がもしも大和田くんを好きだとしたらこの勝負勝ったも同然ですが、そんな希望的観測の元では正しい判断も下せませんし、何よりわたくしのカンがそう言っていますの」


セレスはアーマーリングの付いた人差し指で己の頭を指し綺麗な笑みを作ってみせた。言っていることは無茶苦茶だ。この件に首どころか腕を突っ込んでかき回したい魂胆が丸見えである。しかし彼女のカンは絶対に当たる。そのことを知って大和田すら口を閉ざした。その中でひとりだけが場違いに目を輝かせる。


「おおっと!久しぶりに安広多恵子殿と意見が一致しましたな!」


山田だ。セレスによって作られた独特の空気が一瞬にして霧散した。


「…あたくしの名前はセレスティア=ルーデンベルクだって何回言ったらわかるんだこの腐れラードがァァァアアアアァッ!!!!!!!」
「あべしッ!!!」
「…確かに大和田クンに任せてもなぁ…大和田クンは告白十連敗中だし…」
「じゅ、十連敗!?ププッ、なにそれ俺よりヒドッ!」
「ナァァアエェギィィイィ…」
「あ、ごめん。秘密だったね。つい、」
「つい。ってテメェなァ…!!!」
「あ、返信きたよ!″大和田くんのことは不良だと思ってるれど…まあ、悪い人じゃないと思ってるし、変なことやっちゃってすごく申し訳ない。そこにいるなら謝っておいてくれないかな?まわすのは止めて下さい。死より恐ろしい地獄は見ずに死にたいです″…だって!」
「脈…というか、完全にアレだな、…うん」
「まわす?回すとはなんだ?名字くんを…舞わす?舞い?」
「……ああ、そういうことなんだろうな…」
「き、希望を捨てちゃ駄目だ!悪い人だとは思ってないみたいだし、ね!」
「こんなまどろっこしい聞き方をせずに、直接的に聞けばいいんですわ」
「えっと、まかせて!″ズバリ!名前ちゃんって大和田のこと好き?″って感じでいいかな?」
「もっと断定的に!」
「そして恋愛的な意味で!も付けましょうぞ!」
「じゃあ″ズバリ!名前ちゃんって大和田のこと好きなんでしょ!恋愛的な意味で!″で送信っ!」
「ちょ、おまっ、止めろッ!」
「大丈夫だ大和田!フられたら皆で慰めてやるから!」
「そうだべ!俺の占いによると…よると、……あー…いや、なんでもねぇべ…」
「まあ、わたくしならもっと外堀から埋めましたが…」
「一つも安心できる要素がねェ…!!」
「っていうか大和田もこのままでいいとは思ってないんだよね?」
「まあ、俺たちがあんやこんや気を回したところで、一番重要なのは名前っちの気持ちだからなぁ…」


一応年長の葉隠がたまにしか言わないまともなことを言ったところでとうとう収集が着かなくなった。様々な意見が飛び交い場は混沌とする。よくよく考えてみれば、これまで普通に話し合いとして場が持っていたのが奇跡のようなものだったのだ。
――――――オレが名字を好きだと言った時点で、ヤツらに巻き込まれるのは決まってたんだな…。今更そんなことに気が付き、大和田は腹の底から出るような大きなため息を付いた。


「っていうか、告白はいつにするよ?」
「明日でいんじゃね?雨降って地固まる的な」
「だから勝手に決めてんじゃねェ!!!!」




モドル