月日と言うのはなんの感情も感傷も無いまま貪って、いつの間にか消えてなくなってしまう。まるでこのチョコレートのように。センチメンタルなことを言ってみた。どろりとした甘味が喉に絡みついて気持ち悪い。私はさっき彼が自分のためについだお茶をがぽりと飲み干した。彼は無表情。私の口は止まらない。
しかし、最後には甘くて幸せな時があったと思う。思って、最後の一粒を食べてしまうのを酷く躊躇する。もっと食べたい。こんなことなら、もっと味わってゆっくり食べれば良かった、と。
私はチョコレートに手を伸ばす。もう食べたくない、と思うのに、それは義務のように私の手を蝕んだ。ガリ、と噛み砕くと、はじめの頃とは比べられないくらい簡素な甘みが広がった。はじめの頃はもっと甘かったような、おいしかったような。そんな気がして、ただただ喉にへばり付く甘味が不快なだけだった。
「なぁ、石丸清多夏。お前、後悔してるんだろ」
彼のぎょろりとした瞳は私へ向いていた。しかしその瞳は私ではない誰か、まぁ、彼を見ているのだ。近いのに遠い。と言ったところか。苦笑。しかし笑えない。彼に私の言葉は届いていない。私は続ける。
私も、後悔しているよ。こんなことになるとはと。何故こんなことになってしまったんだと。あの時、ああしていれば。なんてね。でも、時は戻らないよ。帰って来ないんだ。彼も、このチョコレートみたいにね。
彼に見せつけるようにしてチョコレートを噛み砕く。石丸清多夏は無表情。私を見ていない。彼も見ていない。遠い昔、無くしてしまったチョコレートに思いを馳せているのだ。そんなことなら、また新しいのを買えばいいのにさ。私はお茶を飲み干した。緩やかな渋味が広がってとても気分がいい。
「忘れちゃいなよ」
その方が、楽だよ?にこりと笑いかける。彼にそんなことが出来るはず無いと思っているのに。出来たらどんなに良いかと夢を見ている。私はチョコレートに手を伸ばそうとして、もう、食べてしまったことに気が付いた。彼は私を見ていない。近くにいるのにこんなにも遠い。
彼はきっと、チョコレートの国に行ってしまったのだ。楽しくて甘っちょろい幸せな夢に。私は静かに席を後にした。チョコレートを補充しなければいけない。まるでそれは義務のように私の体を蝕んだ。意志ではあったけど、私はもうチョコレート無しで生きていくことは出来なくなってしまったのだ。空気を吸うように、チョコレートを食らう。彼はもう、帰ってくることはない。それが私自身に向けられた言葉だとも知らずに、




モドル